206話 感情爆発

「これだから、宝探しはやめられんのじゃ」


 迫る四つの攻撃全てを、超静雷獣属性魔法<電光石火/ギルガラッシュ>を使う。雷が身体中から発生し、自分の俊敏性を最大まで上げルナとセア二人の近接攻撃を振り抜かれる前にかわし切り、セナとトレインの攻撃をわざと自分から軽く触り即座に退避する。


「嘘でしょ!」


 シャーロットが移動してからやっとそこにいないことに気づいたルナとセアはすぐに意識を周囲に向け、シャーロットを探す。

 そして、今ようやくセナとトレインの放った攻撃は空を切り、奥の木々をなぎ倒しながら消滅する。


「ギルガには感謝せんといかんかもなー」


 一テンポ休みながら速い動きに驚く’三人’を見てシャーロットは違和感を覚える。

 そして、その違和感が何なのか瞬時に見抜き、全神経を研ぎ澄ませる。


「一人……足らんのー」

「ーー隙っ」


 突如、シャーロットの頭上から短剣を携えたセナが降ってくる。

 その落下速度は、普通の落下ではありえない速さを持ってはいたが、今のシャーロットの状態ではそれですら遅かった。

 だがその時、楽に避けらると高を括っていたシャーロットに第二の違和感が襲う。


 それは、他三人からのモノでは無く自分自身にだったーー

 そして、その違和感は徐々に形をなしていき、睡魔というモノに変わる。

 今のシャーロットは至って健康的で、寝なくとも一週間は持ったほどの体力お化けでもあったのでここまで強烈が睡魔が来る事など人生の中でもそうなかった。


「まさか!さっきの……」


 シャーロットはさっき属性研究と好奇心の為、触れたセナの魔法が原因だと察する。


「このような副効果があるとはの……ちっ!」


 迫るセナにいかにとてつもない速さを誇る体になっていたとしても、シャーロットはその睡魔で思うように体が動かせない。


「私の属性をここまで耐えたのはあなたが初めて……大概の’物’は一瞬で眠る」


 セナは自分の短剣に属性を流し込んでおり、これで切られればもう今日中に起きられなくなる。

 セナの属性は一回の属性攻撃を与えられ寝てしまうと十二時間、そして、二回目の攻撃を当てられると二十四時間とその睡眠効果は十二時間ずつ増えていく。

 こういった一秒も無駄に出来ない戦いにおいてはまず寝てしまうという行為自体命取りになってしまう……

 自分の顔の前に短剣を構えたセナは、どう動いても対応出来るように全ての神経をシャーロットに向けていた。

 ここまでの集中力を発揮しているセナを見るのは初めてだった他三人は、その様子をただただ目で追っていた。特にルナは、一番そのセナの違和感を感じており、まるで別人を見ている感覚にまでなっているほどだ。


「はぁああっ!!!」


 シャーロットは睡魔を何とか壊そうと痛みや気合いを入れてみるが一切通じず、仕方がないので思いっきり適当な場所に向けて全力で跳躍する。さっきみたいな細かい動きや速度は出せないが今の場所からは逃れる事が出来るからだ。

 適当に跳躍し、さらに睡魔でもう体が動かず、受け身すら出来ないので跳躍した後の行動は身を任せるしかなかった。


「逃さない」


 セナは落下し地面すれすれで短剣を地面に突き刺し、短剣とそれを掴む腕の力のみを体を支える軸とし地面との直撃を緩和し、足を地につけ、刺した短剣を抜きそのまま逃げたシャーロットを追う為に間髪入れず走り出す。


 シャーロットは身を任せた結果、森の中にある大木に体を打ち付けその反動で脳が揺れ、睡魔に負けてしまい目を閉じ寝ていた。

 そこへ、トドメを刺そうとセナが短剣を横になぎ払う。

 だが、その途中寝ているはずのシャーロットの手が動き、単に横に振られた短剣を持つセナの腕を掴む。


「ーーなっ!!」

「いかんな、私とした事が久しぶりじゃから忘れておった!ほれっ!」

「うlぐぇっあっ!!!」


 完全に目を開けたシャーロットは掴んだセナの腕を自分の方へ引っ張り、超至近距離で、超静雷獣属性スキル<静雷拳/クワゼルガ>を放つ。超圧縮された雷属性が乗った拳がセナの腹部に思いっきり突き刺さり、全身を焼き切るような痛みが襲い一瞬で意識が吹き飛ぶ。セナを突いた拳からの衝撃が木々を破壊し、吹き飛ばす。地面は軋み、ルナ、セア、トレインへその痛みが伝わるほど魔法の圧が伝わる程だった。


 気絶したセナの手を離しシャーロットは含み笑いをしながら他三人を見る……


「なぜ……セナの属性が効いたはずじゃ……」

「うーむ……私の属性の事は頭に入れているはず……いや、お主ら三人は見えてなかったか……」

「ガッハッハ!まさか、あの時触っていたのか!」

「ほう、お前さんは勘が良いのー」


 トレインはセナと同じ位置にいたので若干ではあったが見えていた、シャーロットが属性に触れた事に……


「ま、単純な話じゃが……私の属性にこやつの属性を新しく追加しただけじゃな」


 そう、同じ系統の属性、同じ固有属性を持つ相手には属性の効果が効きづらくなる……それが作用し、シャーロットの睡魔は消えたのだ。シャーロットの属性の恐ろしいところは相手が誰であろうと自分の属性にしてしまえば、属性効果が薄れてしまうので、他の固有属性を使い相手を圧倒出来るのだ。

 そして、常にシャーロットは自分の追加出来る属性を上限より少なくしておく事で緊急時に対応出来るようにしている。


「よくも……よくもセナを!!よくもぉおおおおお!!!!」


 倒れているセナを見て、涙を流しながらルナは腹わた煮え繰り返えらせる。

 そして、ルナはシャーロットの方へ飛び出す。


「という事はっ!!待ってルナ!!」


 セアは、シャーロットの属性を追加した事によるもう一つの脅威を忘れたルナを静止するがもう遅かった。


「バカじゃのー」

「っゔぁぁああああああああああああ!!!!!超桜蘭属性スキル<桜花絢爛/ゴウジェ・ル・ド>!!!!!!!!!!!!!」


 桜蘭魔法<春うらら>によって桃色の花びらになった剣を強く握り締め、ルナはとてつもない速さでシャーロットに迫り、残った天恵を全て使い切りスキルを発動する。

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