163話 修練祭……徐々に激化

ルイン学園 二層地点ーー


「昨日より数多いのーユイ、エーフ気合い入れい」

「分かってる」

「うん!頑張ろう!シロネちゃん、ユイちゃん」


 昨日は、ズ・バイト学園のダイナ姉弟がメインで、数をやると言うよりかは強大な個を抑えるのに苦労したが、今回は前者だ。

 気温もかなり上昇し、周りはジャングル、シロネは水属性魔法で体温調整をしているが、他二人はかなり汗をかいている。


 最初は良い眺めだったが、この時間帯になると、太陽も真上近くで、そろそろ倒れそうだったのでシロネは攻撃を緩めて二人を支援している形になっている。

 出来るだけ近くで監視出来るようにして、二人だけは何とか守れる体勢をとっている。


「しっかし、ジャングルのこの独特の暑さと時たま降るとんでもない量の雨には困ったもんじゃ」

「ホント、その通り……」


 ユイは相変わらず、木の上で弓を引いているが、ジャングルの生い茂った草木で近くにいるのにユイの姿を偶に見失うほどだ。

 エーフは罠の魔法やスキルを再び朝に大量に設置して今は遠距離でチマチマ魔法やスキルを放っているが、このジャングルの中だと、とんでもない威力を発揮する。


「シロネ……来る」

「もう突破されたか!」

「大丈夫ここからは私の罠がある!」


 エーフがそう言うと、戦いの怒号から今度は爆発音や草木が擦り切れる音、生徒の悲鳴などに切り替わる。


「一層よりも二層の方を厚くしておったか」

「うん、昨日からいる人は分かってるからね、今日は逆転させて見た!」

「ま、知っとるやつが行くなと言っても知らん奴からしたら関係ないだろうしな」


 ズ・バイト学園、バハイン学園、カルイン学園の三つが連携して来るので、その生徒の数はかなり膨大になる。

 昨日、来たのは全体の半分程で、昨日の残りと今日の新規を合わせて鑑みるに明日には瓦解するとシロネは考えていた。


「ルイン学園の奴を見つけた!恐らく後方支援組だ!!」


 運が良くエーフの罠を搔い潜った奴がシロネを発見し、報告をするが、後ろを振り返っても味方が一人もいず、一瞬驚きで硬直していた。

 それだけの隙を見せてしまってはユイの餌食だーー

 完璧な角度、距離、偏差で、ユイの矢は肩を撃ち抜く。


「うgぅあ!!!」


 急所は狙えないので基本ユイが狙うのは肩や膝、肘など関節部分を機能不全にまで追い込む。


「クソ!!酸硫属性魔法<酸気拡散/サフィルキュリ>」


 ユイに撃たれすぐに動く右手で三本のポーションを取り出すふりかける。

 回復しながら、矢を無理やり引き抜き、痛みに耐えながら治るのを待っていた。

 そして、それを見ている間にユイに射抜かれた、ズ・バイト学園の男子生徒が放った魔法がじわじわとこの辺りを充満し始める。


「ユイ、エーフ吸うな!!」

「分かってる!」

「うん……」


 シロネは息をするのを辞め、ユイは木から葉を二、三枚取り口と鼻に当て一旦木から降り、身をひそめる。

 エーフは、わちゃわちゃしていたのでシロネが朝にかました水をエーフの顔にぶつけ、水を口と鼻に設置する。


「大丈夫か!」

「ああ、矢が刺さった程度だ……これならやれるぞ」

「そうか……てか、お前またこれ使ったのかよ、俺も被害うけるじゃねぇか」


 ユイが仕留め損ねた人の仲間が来て、援護する。

 ユイは横で風属性魔法を使い、この痺れるような粉塵を吹き飛ばそうとするが、その人を起点にずっと出ているので全く意味がなかった。

 シロネ達が逃げようと離れると相手もついてくるので中々切り離せなかった。

 徐々に徐々に皮膚がピリ付きはじめ、鳥肌がたったような感覚に襲われる。

 意識も徐々に薄れ始め、体も痺れ始める。

 言葉を交わしたらアウトだし、息を止めるのも時間制限がある。  エーフの様子を見ながらなので、やれても残り数十秒。


 喋れないので会話も出来ず作戦も立てれないので、シロネが率先して相手の元へ突入する。

 こうなれば、属性を発動した者を潰した方が早い。


「来たよ!」

「分かっているさ!」


 ズ・バイト学園の二人は、シロネの接近に合わせさらに発動している魔法の濃度を高くする。

 その流れで一気に体がひりつき、痺れ、勢いが殺され地面に手をついてしまう。


「僕らに近かければ近いほど濃度は濃くなるからね」

「お前の属性はホントたち悪いわ」

「ーーっ!!」


 ついた手も震え、肘が曲がりそのまま倒れ込んでしまう。

 後ろでエーフも倒れ、ユイもふらふらとしているのが分かった。

 ここでシロネだけ影属性で転移出来るが、そうなれば二人を見過ごすことになる。


 完全にシロネの判断ミスだった。


「で、ここからどうする?」

「僕はこれを発動している間は動く速度が半分になるから、先行ってもらってもいいけど?」

「するわけないじゃろ……」

「うわっ!!動きやがったぞこいつ」


 シロネが根性で立ち上がると、その二人は相当驚いてみせる。

 一瞬の動揺を狙おうとスキルを発動しようとした瞬間ーー


「こーんにーちーはーですわ〜」


 上から人が降って来る。

 シロネの目の前に降り立ったその女性は、シロネと同じルイン学園のユニフォーム……そして、生徒執行会だと分かる印のバッジを付けた副会長がそこには立っていた。


「こりゃ、大玉じゃねぇかよ!!」

「ああ、こいつは運がある!!」


 生徒執行会副会長、ヴェルダ・アセイン。

 あまり直接的に見たことはなかったが、シロネから見ても綺麗で美しいと思うほどだ。あのキサラギ・ネルに引けを取らない。


 シロネは意識が朦朧としていて思考がおかしくなっており、つい変なことを考えてしまう。

 その奥では、ズ・バイト学園の二人はルインの生徒執行会と遭遇して何方が獲物かと言う事を知らない二人は、ガッツポーズをしていた。


 

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