112話 再確認
いかん……意識飛びそう……
超速のウタゲの拳をもろに腹でキャッチしたアキトは意識が一瞬朦朧とし、足が砕け落ちる。
なんとか膝がつく手前で踏ん張る。
「根性ねぇーなー!」
まだやれるだろうとウタゲは目で訴えるが、アキトの体力はとうの昔に限界を超えていた。
あれから三時間ぶっ通しでやりあっているので当然といえば当然だった。
アキトは痺れる手足に喝を入れる。
まだ、アキトはウタゲに攻撃らしい攻撃を入れられていない。ただ、一方的に来る攻撃を躱し、時に躱しきれずに受けながら戦っていたのだ。
流石にこのままでは訓練相手のウタゲに申し訳なかった。
「先生こそもっと本気出してくれないと昼の時間終わっちゃうんですがね……」
そう、時間も時間なので周りにいた人は医務室に行ったか適当な場所でもう昼食を食べている。かく言うアキトもお腹が空きすぎて治療よりも早く飯が食べたい。
天候も時間が来たので一旦止まっている。早くしないととんでもない天気の中食べる羽目になるのでそれだけは避けたかった。
「いいぜ!アキト。時間も時間だしな、これでラストにしようか」
「そうしてもらえるとありがたいかなと……」
「んじゃ、気張れよ!」
「え?」
その刹那ーー
ウタゲの姿は消え、アキトがその気配を察知した時にはすでに背後を取られていた。レベルの差もあるがウタゲは特に攻撃速度と移動速度がかなり洗礼されており目では追えなかった。
生半可な防御では一瞬で崩されてしまう。
だが今は仕方ない。
「ちぇりゃああああ!!」
振り向きざまになんとか攻撃位置を狙い定めそこに自分の右腕を持って来て合わせなんとか体へのダメージを防ぐが、その代わりに右腕の骨が砕かれる。
「うgぐっ!!」
アキトはそれでも興奮状態が続いているのか痛みはそれほど感じない。だが、折れていることは分かるので気持ち悪い感触がダイレクトに伝わって気分最悪だった。
次に来るウタゲの攻撃に備えすぐにその考えを放棄し、その折れた右腕は一旦無視する。
さっきの蹴りで少しウタゲとの距離が空いたが直ぐに距離を詰めて来る。
体が小さい分ほんと素早いし直ぐに懐に入って来るーー
左手を潰されたら終わるので近づいて来たところをアキトも蹴りで対応する。
左足を軸に重心をおいて右足を浮かせ屈折させ、ウタゲをギリギリまで引きつけて伸ばす。
だが、バレバレの攻撃だったので勿論簡単に軽く右手を合わせ往なされる。
そのまま最接近され胸ぐらを捕まれるが左手でその手を掴みアキトは重心を置いていた左足で後方へ跳ぶ。
「ふっ!!」
足を急に浮かされたウタゲは一瞬動きが鈍る。直ぐにアキトの手を振りほどこうとするがアキトは必死に左手で掴み両足でその小さな胴体を掴む。
「ちっ!!」
よく聞こえる舌打ちが聞こえ、ウタゲはアキトの足を外そうと肘で応酬する。
だが、アキトはもうすでに痛みでよくわからなくなっているのでいくらやられても関係ない。
「捕まえましたよ」
「捕まえただけじゃ私は止められないよ」
その瞬間ーー
「ぐぇtっ!!」
いきなり小さな隙間からウタゲの足が出て来て腹にめり込む。
その反動で片足を外してしまい、ウタゲに逃げられそうになるが右手を酷使し、なんとか掴む。
「しっつけぇな!!」
そのままアキトはウタゲに覆いかぶさるように再度掴み落下体勢に入る。
その時、ウタゲ先生の表情が変わる。
アキトが何をしたいのか見抜いたのだ。
「お前……面倒くせぇことを……」
そう、今俺の重さは普段の何倍もある。その重さプラスこの高度からの落下の勢いも足されれば、ウタゲを地面に叩きつけ行動不能くらいにまでは持ってけるはずだった。
はずだ……
落下する最中、ウタゲはなぜか笑顔だった。
**
「あれ?」
アキトは、見知らぬ天井で目がさめる。
さっきまでウタゲに一矢報いるために何とか戦っていた記憶が最後なので記憶が曖昧だった。
覚醒してまだ脳の処理が追いついていないのか混乱している。
「あらあら〜もう起きたの」
隣には、シェルが座っていた。それによく周りを見渡してみると、この訓練で負傷した生徒がアキトのようにベッドで横たわっていた。
「痛っつ!!」
不意に体の様々な箇所から痛みが込み上げて来る。
最初は切り傷や打撲など軽い痛みからジリジリと内出血、外出血、様々な骨折と痛みが順番に到来する。
アキトは意識を取り戻したことを後悔しつつ何とかシェルに軽い笑みで対応する。
多分今凄い気持ちわるいな俺……
アキトは自分の顔を思いながら、何とか別の事を考えて痛みからに難かった。
シェルの処置により、外傷や出血などを止めてくれてはいるが完治させた訳ではないので誤魔化していた負債が爆発している。
「ウタゲちゃんの暴走ごめんねぇ〜」
なぜか、シェルは目元をウルウルさせながらアキトに謝る。
「俺はあの後どうなったんです?」
「さぁ?ここまではウタゲちゃんが運んで来てくれたから詳細はわからないわ〜」
「けど……運んで来てくれた時何故かウタゲちゃんボロボロだっったのよね、何かしたの?」
ぐいっとアキトにシェルは顔を寄せる。
怖い……超怖い……この人はウタゲ先生のことを好きすぎなんだよ。
目元をウルウルさせていた理由もアキトは察し、何とか考える。
「僕も途中で意識無くしたみたいでよく覚えてないんですよ」
「そう……それならしょうがないわね〜もし記憶あったらちょっと傷を元に戻しちゃうとこだった!」
この状態に、意識を失ったことに初めてアキトは感謝する。
「先生ーちょっと手空いてたらお手伝いよろしいですかー」
「はいは〜い」
外から他の先生がやって来る。
よし、これでアイテムが使える……
アキトは心の中でシェルが出て行く事を嬉しく思う。
今、ルイン魔導学園では、負傷する生徒が多すぎてポーションを使うことはない。
ルーエが足りず、一人々に使っていたらキリがないからだ。
アキトは一応周りの様子を見てから気づかれないようにアイテムを使い回復させる。
「よっしゃ、行きますかな」
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