55話 貰い物

 アキトは眠れずにいた。

 最初試合が始まる前はしっかりと寝れたのに、そのモードはとっくに過ぎていた。


「アキト!俺、優勝したぜー!!」


 ドアを蹴破る勢いでバルト達が入ってくる。

 アキトの休憩はバルトの到来で壊滅した。


「おはようなのじゃ」

「あ、ぁあおはよう」

「アキト、あと三十分後に闘技場にまた集合だって」


 バルトの脇腹にフックをかましたユイが教えてくれる。


「了解した。ただまさかバルトが優勝するとはな……」

「ま、俺の実力ならあったり前よ!!」


 負けたアキトを案じてか謙遜しろとユイはバルトにアッパーを繰り出していたが、今度は華麗にバルトに躱され、それに調子に乗ったバルトだったが、後ろからのエーフのチョップをもろに受けたんこぶを作っていた。女子二人の息ぴったりな連携プレーだ。


「ホルドさんとナナミはどこに行ったんだ?」


 そう、さっきからその二人の姿が見当たらない。

 決勝まではバルトの戦いを見ていた筈なのでどうしたのか気になっていた。


「それならさっき、先に帰ると伝えてくれと言われている。二人共やたらニコニコしてたがなんか良いことでもあったのか?」


 トイレから帰って来たトルスが話が聞こえていたのか答えてくれる。


「なんだ良かった。何かあったのかと心配してたんだ」

「心配性なんだねアキトは……」

「まあな」

「そういえばっ!さっきの試合凄かったねアキト。まさか棄権しちゃうとは思わなかったけど……」

「ん?あ、あぁ」


 アキトはいきなりさっきの試合のことをお持ち出され少し変な答え方になってしまった。


「どうしたの?」

「い、いや。ハヤトも強かったからな。あのままやってても勝てなかったよ」

「観客席から見てたけどあんなのとまともに戦えるだけでも凄いのにあそこまで応戦できるなんて……」


 実際のところハヤトの方が強い。

 アキトとしても後一つのアイテムも謎だったし、あのまま続けてたとしても確実にアキトの負けだった。やはりレベル四十二ではまだまだった。


「まぁこういうことには慣れてるから」


 OOPARTSオンラインの時はあれくらいの魔法やスキルなんか普通だったし、アキトは物足りないくらいだった。

 だが、痛みがある分無茶は出来ないし、ダメージを受けると動きも鈍るのでその辺の感覚を掴めて今回の試合はかなり実りのあるものだった。


 すると、控え室に試験官が入って来て闘技場の方の修復が終わったのと集合がかけられている旨を伝えられる。

 そのままさっきまで戦いが繰り広げられていた闘技場の中央に集まる。


 さっきまでアキト達がぐちゃぐちゃに壊した石畳で出来た闘技場は綺麗に元通りなっていた。

 アキトは一体どんな風に戻したのか少し気になったがちょうどウタゲが二次試験開始前の説明の時と同じように音声を遮断する結界を張り、喋り始める。


「えーこほん。まずは2次試験お疲れ様です。この二次試験の結果を踏まえクラス分けの方をさせてもらいます。クラスの発表は入学式の日に張り出しますのでそちらをご覧ください。入学式は今日から七日後になるので間違えたないよう気をつけて。必要な物(制服等)は試験管が届けに行きますのでそのつもりで……そして、」


 ウタゲは一瞬立っている生徒に視線を移す。


「みなさん合格おめでとうございます。帝国領リ・ストランテ、ルイン魔導学園へようこそ皆さんの入学、心よりお待ちしております。では、これにて入学試験を終了します。お疲れ様でした」


 その挨拶を皮切りに観客から拍手が送られる。試合が終わったのにまだ残っている人も結構いるのでオーケストラ後の拍手のような壮大感があった。


 ウタゲはかなり疲れており、シェルに抱き抱えられ何処かに連れられていた。


 あんな感じの人だからこういうちゃんとしたこと苦手なんだろうなとアキトは思う。


「おう!坊主達これ食ってけ!」


 小麦色に焼けたお肉に甘辛いタレがたっぷりかかった串肉焼きを貰う(人数分)、「ササクレ」というらしい。


「「あ、ありがとうございます」」

「あらあら可愛い子達ねーこれ持っていきなさいな」


 今度はユイとエーフ、シロネがお婆ちゃんに腕を引っ張られ、装飾品を渡される。月と太陽、そして雪の結晶が描かれたブレスレットだ。ユイが太陽、エーフが月、シロネが雪の結晶の刺繍が入ったブレスレットを貰った。

 宿屋までの帰り道いつも通り出店がやっている道を歩いていたのだが今回平民が全員合格したということと二次試験で顔が広まったことでかなり街で噂になっていた。


 街にいる人全員ということではないだろうが貴族には思うところがあり、会う人会う人に賞賛されなかなか前に進めない状況に陥っていた。


 といっても街の人みんな特別不満があると言うわけじゃなくいつも上から言ってくる貴族たちに一泡吹かせたという「やってやった」感が強い。


 それからも街の人にいろんな物を貰い宿についたのは日が落ちる少し前だった。


「「ただいまですぅううう」」


 宿の扉を開けみんな倒れこむ様に入って行く。

 行くのに三十分もかからなかった道のりに帰りは二時間かかったので精神的に効いたのか、みんなスライムみたいに弱々しかった。


 元気なのはバルトとトルスだけだ。

 この二人に荷物持ち、途中から何方が多く持てるか競争していたにも関わらずむしろ物足りないくらいの様子で、この時ばかりは助けられた。


「あらあらーお帰りなさいな」


 ホルドが厨房から顔を出して出迎えてくれる。

 机を拭いてたナナミもこちらに来て荷物をそれぞれのアキト達の部屋へ運んでくれる。

 ななみんまじ天使、バルトには勿体無いくらいだ。と、アキトは軽く頭がバグってはいるがなんとか到着する事が出来た。


「もうすぐ夜ご飯できるから待っててねー!今日はみんなの合格祝いに豪勢にしちゃうからー」


 十分も立たない内に机から溢れんばかりに料理が並べられ、皆んな席に着く。今回はいつもの倍以上の量なのに加え豪華レベルも倍になっていた。


 だが、今はこれを全て平らげる自信が皆の中には宿っていた。道中は貰った食べ物はアイテムボックスに入れ我慢して来たのだ、そう、今は皆超空腹状態。


 そして、皆一斉に食べ始める。

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