45話 卵

 リ・ストランテ近く、一次試験の試験会場であり、アキトが最初にレベル上げを始めた場所。

 ここなら邪魔もなく一人で悠々自適にレベル上げが出来ると思いアキトは一人でやって来ていた。


 一次試験の被害で森の所々が禿げており、この森はやっていけるんだろうかとアキトは疑問に思う。


 この世界のあらゆるものに’天恵’が流れており、勝手に再生する。切り株が残っていたらそこからまた木が生え、根だけ残っていたらそこから時間をかけ再生する。


 そう言った生命力を総称して’天恵’と言う。

 この天恵は人にも流れており、魔法やスキルを使うと消費される。

 人の中に入ると天恵は大きく分かれる。一つが’動天恵’、これは魔法を使う際に消費される。

 そして、もう一つが’静天恵’、これはスキルを使う際に消費される。


 この世界は、様々な物が天恵をエネルギー源としており、酸素のように空気中等にある。


 そのことをシロネに聞いたらアキトは常識だとバカにされた。

 アキトは改めて知識が無い事に焦りを覚え、早く学園に入り情報を集めたかった。


 今、アキトのレベルは四十。

 ここから五十まであげるのがアキトの今のところの目標だが、今回はシロネが和衷協同での経験値を見込めない。なので一人でも効率のいいレベル上げをしないといけない。

 アキトは最初エル達五人を「和衷協同」に入れたかったがだめだった。 こればっかりはアキトの意志ではどうにも出来ないのでアキトは諦めたが少し悲しかった。


 前回のように「経験値十倍の書」を使ってもよかったが、今回はシロネの分もないし結構勿体無く、さらに、シロネのスケルトンも貸し出し不可となっているのでアキトは自分でどうにかしないといけなかった。


 そこで今回使うのが’卵’だ。


 アイテムガチャで引き、大量に余っている様々な「ランダム魔物の卵」だ。

 この魔物の卵を使うとその場にその魔物が召喚出来る。

 ただ、この召喚された魔物は戦いに使ったり身代わりとして置くものではなく、経験値アイテムに属している。


 この魔物の卵にはレベルごとに召喚出来る魔物が違い、さらにレア度がEからSSまである。

 例えばレベル一から十の間だと低ランク帯のスライム等が召喚される。 レア度Eだと経験値はレベルアップに必要な経験値量の0.01パーセントになりレア度最高のSSランクだと1パーセント。

 つまり、SSの魔物が百体でレベルがやっと1上がる、あまり効率が良いとは言えない代物だ。


 ガチャからの排出率もEからSまでは割と出やすいのだが、SSとなると排出率が5%になる。

 だが、アキトの課金額はぶっ飛んでいるのでそのSSの魔物の卵はレベル九上がる分の九百個所持している。

 ただ、今のレベルで使うとかなり勿体無い。このSSの魔物の卵はレベル90までは取って置くことにしてある。今回使うのはそのEからAの大量の卵だ。


 これを一週間片っ端から使っていきレベル上げをする。

 さらにOOPARTSオンラインではなかった努力レベルもあるのでかなりいい練習相手になる。


 これでレベル四十二くらいまで行けば御の字だとアキトは考えていた。


 アキトは適当に魔物の卵欄をレア度順にソートし、SSを除外してランダムに一個目、レア度Bの卵をアイテムボックスから取り出す。出してみると、楕円形のラグビーボールくらいの大きさの卵で総量五キロある。


 アキトは持っている卵を五メートル程放り投げる。

 すると地面にぶつかる訳でもなく吸い込まれるように入って行く。

 すると、吸い込まれて行った場所を中心に半径一メートル程の楕円形が四つ重なった魔法陣が出現し、魔物が出現する。


 SSの魔物の卵を使えない理由はもう二つある。

 それは魔物自体の大きさだ。

 SSの魔物は全部が全部とは言わないが、半分以上は巨大な部類の魔物が出る。それに、アキトの今の実力では例え同レベルでもかなりきつい相手だった。


 今回召喚されたレア度Bの魔物はケルベロス。

 だが、このケルベロスはレア度Bなだけあって頭が二つしかない本物のケルベロスの劣化バージョンだ。

 「ランダム魔物の卵」は基本自分と同じレベルのモンスターが出てくるようになっている。


 今回召喚した魔物はケルベロスレベル四十。


 そしてアキトには一つ気をつけなければならないことがある。

 それは、この魔物がこの世界にいるか分からないのでここで確実に倒さなければ、もしいなかったとすると魔物達の生態系が崩れ下手すれば世界が滅びかねない。

 まだ、レア度Bだから良いがこれ以上になるとかなり危険なのでこのアイテムを使う場合は注意しなければならない。


 アキト自身、アイテムが残っていると言う事は、女神から公認されていると考える事も出来たのでこの一週間実験も兼ねて使うつもりだ。


 召喚されたケルベロスはよだれを垂らしアキトを見ている。

 OOPARTSオンラインの時と基本変わらない格好でアキトは内心ホッとする。


「うぐぅががあががぐぐぐぅ……」


 ケルベロスは重低音で唸り威嚇する。

 もうちょっとわんわんと鳴いてくれたら愛嬌があって良いのにとアキトは思いながら戦闘の準備に入る。

 そこまで気を張る相手ではないのでアキトは基礎を忠実に確認するように突っ込む。


 すると、それに合わせてケルベロスはいきなりスキルを放つ。

 ケルベロスの体に黒い霧状の物質がまとわりつく。


 スキル<低級魔法無効化/ウィークマジックデイション>だ。

 これは位の低い魔法を完全に無効化するスキル。


 OOPARTSオンラインの魔法とスキルには下のランクから通常魔法、属性魔法、超属性魔法、太古級属性魔法、超古代級属性魔法の順で強くなる。スキルもこれと同じだ。


 そして、この場合の低級というのは通常魔法のことで、それ以外は効果があるのでそこまで意味がない。


 アキトはそのまま重力スキル<加重力拳/アドグラビティナックル>を使い、二つある頭の内片方を思いっきり殴り飛ばす。ケルベロスも回避行動を取ろうとしたがスキルを使っていたので反応が遅れる。


 そのまま吹っ飛ばされたケルベロスは地面に二転三転し、木の幹に激しくぶつかる。

 ケルベロスは殴られた方の頭から激しく出血しており、このままほっといても死ぬ勢いの傷と出血だった。

 ケルベロスは立ち上がると千鳥足でふらふらと少しの間足元がおぼついていない。


 アキトはその隙を逃すわけもなくもう一つの方の頭を重力スキル<加重力拳/アドグラビティナックル>でもう一度同じように殴り飛ばす。

 アキトの拳が当たった瞬間力尽きたのかそのままケルベロスが四散する。魔物の卵から生まれた魔物は血肉となって残るのではなく役目を終えたかのように綺麗に消える。


「なる程これなら心配なさそうだな……」


 その後も、アキトは次から次へと魔物を召喚しては倒しを繰り返す。

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