37話 宿屋

 結局、一次試験自体の残り日数はまだあったが合格者数と脱落者数で全ての受験生の結果が出たので強制終了となった。


 結果、百二十三人中アキト達六人、ハヤトのチームとその側近にいた人達十名、アキトのスキルを受けた百人中二十人、合計三十六名が二次試験まで残った。

 残ったと言ってもこれまで一次試験だけでこれけの人数が退場したのは初めてだった。


 日付は変わって今、アキト達は最初にウタゲ先生が一次試験のルール説明をしたところに合格者が集められている。


 昨日負傷した人達は現在療養中であり、試験官にまで身内を仕込ませていたことが露呈しないようウタゲ達には上から圧力があったが、それと引き換えに負傷者には目を瞑れとウタゲは抵抗したので、明るみになる事はなかった。


 そして、今後ろの方でアキト達は六人固まってウタゲ先生の話を聞いている。


 次の二次試験まではこれもまた準備が必要で、一週間後に開始される。 試験内容は一次試験同様当日までは教えてもらえない。


 一通りウタゲ先生が喋り終わると、壇上の上から降りる。それが解散の合図のように受験生達は皆散っていく。

 アキトはハヤトの方を何気なく見てみる。すると、今はチームメイトに囲まれており、何かを話していた。


 アキトは視線をずらしながらこれからどうしようかと考える。


「アキトこれからどうするよ」


 後ろからバルトが何度もアキトの肩を叩き聞いてくる。

 それは他の五人も同じだったのかその答えをじっと待つ。


 え……俺これから宿に帰って、ご飯でも食べて、寝ようかと思っていたんだがーーみんな各々宿に行ったり、特訓したり、街を見て回ったりするんじゃないのかね……

 てっきり、アキトは皆それぞれこの街で泊まっている宿屋に戻るものだと考えていた。


「皆さんはどこに宿泊してるんですか?」

「俺は妹と来てんだけどよー部屋がそのせいで狭いんだよなー」


 バルトは、少しも嫌そうな感じがしないむしろ嬉しそうな口調で言う。

 それを見て、誰も共感せずバルトは無視される。


「私たちが泊まっているとこはご飯が付いてなくて……なかなか大変です」


 エーフが言い、トルスが同意と言わんばかりに首を縦に振っている。


「私は近くの森で野宿」


「えぇ!!」とユイの発言を聞き、皆驚く。

 一人の女性が野宿というのは危険そのものなので驚くのも無理もない。


「大丈夫、私は自然が好きだから……」


 ユイは本当に自然が好きであえて宿屋を取らなかったのだが、何か勘違いをしたエーフがユイを思いっきり抱きしめる。


「苦しいぃ……」


 エーフの目がさっきまでの雰囲気と一変して今は何が何でも宿屋に連れていく目をしている。


「今日はこのまま離さないからね!!」


 そう言いエーフは手を掴む勢いで手を繋ぎ、その上、手が離れないよう、魔法をかける始末。


 それは、流石にやり過ぎかと思ったのかエルが慌ててやめさせる。

 結果普通に手を繋ぎ、時より抱きしめるというちょっと愛が強い姉妹みたいな関係の完成だ。


「はーどっかに部屋がそれなり広くて、料理が美味くて、自然っぽい木を基調とした宿屋ないかなぁ〜」


 バルトがわかりやすくため息をつく。


(良いではないか誘えば、ホルドも喜ぶのじゃ)

(そうだな、流石にユイがあの状態はちょっと心配だし、これも何かの縁と思えばいいか)


 皆が悩む中、アキトは覚悟を決め左手を挙手する。

 全員の視線が一斉にこちらに向き、なぜか緊張感がアキトの中に走る。


「俺が泊まってる宿屋は値段の割に料理も美味くて、部屋も別に狭くはないし、自然感というか木造建築だがどうかな」


 アキトが言った瞬間、皆が静まり返る。


「アキトお前……それほんとか?」

「ホントだって、今日この後見にいくか?」

「そんなの当たり前だろ!!」


 ということで六人と影の中一人で、アキトとシロネが泊まっている宿屋パイオニアに向かうことになった。

 途中街の出店で買い食いしたり、装飾品を見たりと寄り道しながら向かっていた。


 出店が並んでいる場所は人だかりができ、混み合っていた。

 周りの建物も精巧に建てられており、万華鏡のような煌びやかさがある。ステンドガラスなど光を上手く使った装飾がされている。


 道路もしっかりと整備されており、石畳で出来た道が東西南北ある門に十字架状に繋がっており、そこから細々とした道もしっかりと整備されている。街が正四角形に近い形になっており、中央に向けて地表が高くなっている。まだ、元の世界のような排水設備がないのか洪水にならないよう外に向けて水が流れていくような構造になっている。


 その水を排出する各出入り口には川が繋がれており、そこから街の中の川へUターンするものとそのまま外の川に行く道、二つに別れている。


 ところどころに木々が生え、カフェテラスのような食事処もあり、観光で来たら退屈は絶対しない。

 そして、全体的に色が白と青を基調としており、時々清掃している人も見かけられ清潔感のある街だ。


 軽い軽食がてら出店のご飯を食べ歩き、雑貨屋や武器やなど適当に見て回っていたらもうお昼過ぎになっており、ちょっと急ぎめで宿に向かうことになった。


 アキト達は最初バルトと出会った通りを抜け、宿屋パイオニアの看板が見えてくる。

 街の中では裏側のほうにあるので確かにここは気付かれにくい。

 バルトが我先にと走って行き、その後を追ってアキト達もついて行く。


「俺が一番のりだー!!!」


 そのままの勢いで、宿屋の扉を開けるバルト。

 扉を開けた刹那ーー


「うわぁああ!!」


 間抜けに驚いたバルトの声が響く。

 何かとアキトは心配になったがそこにはホルドさんの姿があるだけだった。

 ちょうど扉を開けようとしたホルドさんとバルトのタイミングが合い驚いたのだ。

 バルトはホルドさんの’迫力’に驚いた所は大きい。

 アキトとよりも大きく大体180cm後半くらいある。そしてがっつりとついた筋肉によってさらに威圧感を増している。


 いやんーーと言ってホルドはバルトとぶつかった瞬間、よろけるふりをする。

 わざとだという事はアキトとシロネからしたら明白だった。


 近くにいるアキト達に向けバルトが涙目で走ってくる。


「アキト騙したな!!俺を罠にはめるとはーー」

「いや、騙したって……」

「あら?アキトちゃんもう帰りなの〜」


 ホルドがアキトを見つけバルトが言おうとしていたことを遮り、話しかけてくる。


「ええ……一次試験が意外と早く終わったので」


 そう言って、宿屋の入り口の前に到着する。三、四日いなかっただけでもう懐かしさがあった。

 宿屋の中に入ると、皆感嘆を漏らす。さっきまでわめいていたバルトも静かになった。


 それもそのはずで、ホルドはアキト達がいなかった間の数日で一階の内装をリフォームしていた(1人で)


 前よりも、少し暗めな雰囲気で、どこか西部劇を思わせるような装飾品、テーブルは四角型ではなく角がなくなり円型になっている。

 厨房も一新し、新しい食器や調理器具が並んでいる。ギシギシ音がなっていた階段も素材はそのままで直してあったりとかなり変わっていた。


 アキト達は一旦その円形状の机に座る。


「この子達はどうしたの?」

「試験で仲良くなって、宿屋を探しているって聞いたのでここに連れてきました」


 すると、ホルドさんは人数を人差し指で数え始める。


「ごめんなさいねぇ〜全員は難しいかもシングルが四つしか空いてなくて……ダブルならあるんだけどーー」


「私達ダブルでいいよ」


 そう言って、エーフとユイがダブルの部屋を選択する。

 同じくバルトも妹の分を入れてダブルを選んでいる。


「せっかくだから僕達もダブルにする?」

「問題ない、俺もそっちのほうがいい」


 これで、エーフ&ユイペア、エル&トルスペア、バルト&バルト妹ペアが仮で決まる。


「良かったわぁ〜それじゃまずは自己紹介ね。私はホルドこの宿屋パイオニアの店主よろしくね」


 そう言ってホルドは右目を閉じバルトに向けウィンクを送る。

 ウィンクを受けたバルトはホルドを直視しないよう頑張っていた。

 ホルドさんにロックオンされたバルトは徐々に顔が青褪めていく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る