26話 1次試験

 翌朝……

 昨日同盟を組んだ六人は誰からも襲撃は受けなかった。魔物も夜に活発になるのだが運良く遭遇しなかった。


 アキト達は今朝食の準備中である。

 また、今朝もアキトは薪集め担当になり、女性陣が主に調理関係、アキト以外の男性陣が食料調達を担当している。


 アキトは薪を拾いつつたまに出てくる魔物を片付ける作業を約一時間やっていた。

 こんな弱い魔物なら配置するだけ無駄になるんじゃないのかとアキトは疑問に思いつつ探索する。

 薪を拾い集め皆の元に戻った時にはすでに朝食はほぼ完成していた。美味しそうな匂いと共にお腹の虫も豪快に鳴る。


 食事中は今日の動きについて話し合っていた。


「今日は……というより基本はゴールを目指しつつ試験官を見つけてスクロールを確認するって感じでいいよね」

「それでいこう」


 エルはそう言って朝食のスープを啜る。

 スープの湯気のせいでメガネが曇り、軽く結露した時にはみんなで笑っていた。

 そして準備を整え出発する。

 六人で動くのでそんな早くは移動できないが四方八方をケアできるので途中の魔物は難なく突破することが出来た。


 移動の陣形はバルトとトルスが前その後ろにエルそのすぐ後ろにアキト、アキトの後ろにエーフとユイの二人という配置になっている。

 魔物は大概トルスとバルトが張り合って討伐している。途中からはどちらが多く倒せるか勝負まで始まっていた。


 二人とも戦闘スタイルは同じようで、出てくる魔物全て顔面を殴打し、殆どスキルや魔法を使っておらず、素手だけで戦っている。

 たまに倒し損ねた魔物が二人を抜けて襲ってくるがエルかアキトが対処していた。


 ほんとやるなら完璧にやってほしいものだが、二人は勝負のことしか頭に入っておらず熱くなっていたのでアキトは思うだけで、特に何か言う事

はなかった。


(なんじゃなんじゃ仲間が増えとるの〜)


 シロネは今起床した。

 これまでずっと寝ていたらしく、眠そうな感じでアキトに話しかける。


(なんか六人でチーム組んで共闘しようってことになったんだよ)

(ほーん……そんなことよりわしの朝ごはんは?)


 シロネにとってそんなことはよりも早く朝ごはんが欲しかった。

 仕方ないのでアキトはバレないようそっと影の中に食料を放り投げる。


(しっかりやるのじゃぞ、わしは今回は介入しないからの)


 当然今回の試験、アキトはシロネからの手助けを断った。


(吉報を待っとるからの)


 シロネはそれだけ伝えると和衷協同を切る。

 そうこうしてる内に今日一人目の試験管を前の二人が見つける。


「試験官スクロールの属性は何ですか?」


 エルが試験官に問う。

 アキト達が持っている属性スクロールは火、エル達三人が持っているのは水だ。


「あら〜見つけるの早いわねぇ〜」


 そう言ってその試験官は思わずこちらが眠くなりそうな柔らかい声で答える。

 海のように青い髪ウェーブがかった長髪は太陽の光と合わさって煌びやかで背が高いお姉さん気質っぽさが浮かんでくる、胸もそれなり大きいのに体はいい具合に引き締まっている。


「私のスクロールの属性はねぇ〜……」


 そう言いかけた時だった。


「やっと見つけたぞシェル」


 そう言って茂みの中から見覚えのある試験官が顔を出す。


「ウタゲちゃ〜ん、この子たち一番のりだった〜」

「ふ〜ん」


 ウタゲ先生は六人を凝視するが、アキトは知らぬ存ぜぬを貫き通す。


「まぁいいだろう、スクロールの属性を教えてもらおうか」


 完全に空気扱いのエルを尻目にバルトが答える。


「俺たちのチームは火属性だぜ」


 エル達のチームはエーフが答える。


「私たちは水属性です」


 アキトはできればウタゲ先生と同じスクロールではありませようにと心の中で唱えていた。

 それが功を奏したのか、しっかりとウタゲ先生と当たる。


「あ、じゃあこの子たちゲットね〜」


 そう言ってシェルという試験官はエーフに抱きかかり三人をどこかへ連れて行ってしまった。


 アキトは覚悟を決める。

 バルトとユイも薄々感じているのだろう、この人が容赦という言葉を知らないことを……


**


 アキト達はウタゲ先生について少し離れた場所に来ていた。絶対に人工的に作られただろう違和感しか感じられないぐらい森が綺麗にひらけていた。


 木や草が欝蒼と茂る中に突然何にもない円形に広がった土地がある、しかもところどころ焼けたような跡があり絶対にウタゲ先生が燃やしたに違いないとアキトは心の中で確信する。


 バルトとユイもこの違和感には気づいたようで、さっきから辺りをキョロキョロ見ている。


「お!こんなところにひらけたいい場所があるじゃないか」


 とってつけたような分かりやすい嘘を言い放ち、その場所の中央まで移動する。


「さぁてと君たちには何を課そうかな」


 少し考えたふりをした後……否絶対最初から考えていただろう課題を口にした。


「うん、決めた。私と死ぬ気で戦え」


 その瞬間ーー

 三人は同時に唾を飲む。

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