10話 旅立ち

天界女神のお部屋ーー


 女神二人は、転生し居なくなったアキトの座っていた場所を見据えたまま何分もの間沈黙が続いていた。


 最初にセドナの方が痺れを切らし先に口を開ける。


「ほんとに、お前とゲームしていたせいで予定より彼の転生がかなり遅れてしまったじゃないか」

「ああ、その設定もういいんで元に戻してください」


 すると、隣にいるもう一人の女神アウロラは無表情のままセドナの方に振り向いて淡々と言い放つ。

 セドナはこれを言われるとこの遊び(設定)を戻し、普段通りにアウロラと接するというマニュアルがあった。

 そして、セドナは老いた設定を元に戻し、本来の姿に戻る。


「申し訳ございませんアウロラ様。今回はちゃんと成功したということで大丈夫でしょうか?」


 アウロラも本来の女神の姿に戻る。

 声質や、容姿、頭の上から足のつま先まで全てが鮮麗されとてつもなく美しく、セドナの一番尊敬する女神だった。

 アウロラは人と会う時は幼さを混ぜ美しさのレベルを落とさないと話ができる状態になれないのであえて面倒臭い振る舞いをしている。


「そうですね、最初拒否された時はひやっとしましたが成功と捉えてもいいでしょう」

「やはり、剣崎光希を転生させておいて正解でしたね」


 セドナがそう言うと、アウロラと目があう。

 アウロラの瞳には兆を超える色の線で描かれた四角形が無数に刻まれている。

 セドナですら本来の姿のアウロラと目を合わせるだけで、吸い込まれそうな感覚に陥る。


「えぇ、初めてですよ私たちの仮初めの姿を暴いたものは……」


 そう言うとアウロラは一変する。


「クフッ……フフフフフフ」


 突然笑い出したアウロラを見てセドナは少しアウロラから距離を気づかれないようにとる。


「もう最高でした!やはり人間というのは面白いです!」


 そう、アウロラとセドナは暇すぎて色んな世界を渡り魂をさばいてきたが同じことの繰り返しで飽きていた。

 そこで、見つけたのが地球の人間という種族、アウロラはそれから人間にハマりだし、観察を始めた。

 だが、見ているだけだと当然飽きがくる、かと思われたがそれはなかった。

 アウロラは人間一人々を観察し見定めていた……面白い人間を探すために。

 しかし、セドナの予想通りそれにも飽きが来てついにアウロラは人間への関与を考え、そこで思いついたのが魂への関与であった。


 死んでいれば女神でも関与可能、それを思いついたアウロラは人間観察にさらにはまっていった。


 そんな中、偶然にもアウロラは地球と同じような星を見つけてしまう。

 そう、それが彼らを転生させた世界、それを見つけアウロラは二つの世界を使いさらに人間観察を続ける。

 二つの世界を使い、面白い奴がいればこうやって転生させどんな変化が生じるかそれを見てアウロラは楽しむ。

 ただ、変化させすぎると世界が終わりかけないのでそこの加減はセドナの役割だった。

 そして、今回あの二人が選ばれた理由ーー


「あの二人を注意深く見ていて正解でした!」


 アウロラはさっきの無表情具合からは想像出来ないような屈託の笑顔で話す。


「最初宝くじに当たって2人共親孝行に使うんだから面白くないなぁと思ってたんですが、まさか残りをゲームに課金だなんてしかも全額!大概の人間は貯金だの家だの投資だのと普通のことしかしませんからねぇ……それじゃあ面白くない!」


 そう、アウロラは結局退屈しのぎができればいいだけ……

 セドナにとっては無数にあったアウロラの暇つぶしがまた始まったにすぎなかった。


 セドナは昔興味本位で人間の面白さについて深く聞いて見たことがあった。

 その時返って来た答えは、醜いから……だった。

 人間の欲に逆らえず落ちていく者、その欲を使いうまくやっていく者の差、容姿や体型の差、見方考え方捉え方の差があったりと人間は一人々が全く違う……たったその程度の差だけで、同種族で殺し合い、蹴落としあう。


 そんな種族他に居ないとアウロラは言う……だからこそ面白いんだと。


「では、観察を続けますかね♪」


 そう言うと、アウロラは踵を返し奥の部屋に向かう。

 それにセドナも何も言わず追随する。

 最後にぼそっとアウロラは呟く……


「あと、二人程面白い人がいるんですよ」


 天幕の向こうで喋ったアウロラの美しい声はセドナには届いていなかった。

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