19. おっさん、暗躍する②

 

「まだ名前を聞いていなかったね。俺はオサムだよ」


「・・私に名前はありません」


 聞くと奴隷は持ち主が代わると、古い名を捨てて新しい名前を主人につけて貰うらしい。


「奴隷になる前の名前は・・?」


 すると少女は悲しそうに首を振る。


「もう、その名で呼ぶものは誰もおりませんので・・」


 色々あったのだろう・・無理に聞く事もあるまい。話したくなれば、いつか自分から話してくれるだろう。


「ぜひ、ご主人様に名前をつけていただきたいです」


 まっすぐにこちらを見つめる少女。


「・・・カグヤ、とかどうかな?俺の故郷に伝わる物語に出てくる姫の名前なんだけど・・」


 シラユキさんとも姫つながりになるし。


 うつむく少女。

 ・・あれ、気に入らなかった?ほ、他の名前にする?


「・・いっじょうだいじにじまずぅ~~」


『びえぇぇぇー』と号泣する少女。

 喜んでもらえたようで何よりだけど、整った顔立ちが台無しなのでハナミズ拭こうか。


「すみません、あまりの嬉しさに取り乱しました・・」


「・・お、おう」


「身命を賭してご主人様に尽くしてまいります。ふつつかものですがよろしくお願いいたします」


 ソファーの上で三つ指ついて頭を下げるカグヤさん。こっちの世界でもそういうのあるんですね。でも命は賭けなくてだいじょぶです。



 ちょっと野暮用があると告げ、宿を出る。カグヤさんはついてこようとしたが、シラユキを一人にする訳にはいかないので残ってもらった。

 まずは高級服を扱う店に向かう。場所は宿の執事さんに教えてもらった。これからする事の為に身なりを整える必要があったからだ。


「いらっしゃいませ。どのような服をお探しですか?」


「いい素材を使った上品な服が欲しい・・予算は大金貨1枚だ。」


 店員は大金貨1枚と聞いて目の色を変えた。

 奥から数点の服を持ってきて目の前に並べる。ひとつひとつ店員が説明しているがあまり興味がない。派手すぎず地味すぎず見る人がみれば質のいい物だと分かりそうな服を選んで支払いを済ませる。店の中で着替えさせてもらい店を後にした。


 そして俺は領主の館に来た。

 門の前が慌しい。鎧を着た男達が武装して、今にも出発しようとしている所だった。

 その中の一人が俺に気付いて叫んだ。


「貴様は!・・よくもぬけぬけと現れたな!!」


 金属鎧を着たガラの悪そうな男Bだ。


「お連れの方はどうされました?」


「ヤツは骨折で入院した・・貴様がやったんだろうが!!領主様に楯突いてタダで済むと思うなよ!?」


「それは誤解です・・私は領主様に楯突いたつもりはありません」


「嘘をつくなっ!!」


「では逆にお聞きしますが、あなたは〝最初に″自分が領主様の私兵だと名乗られましたか?」


「い、いやそれは・・だが、この鎧を見れば分かるだろう!」


「・・私は遠い異国より旅をして、初めてこの街を訪れました。鎧を見ただけでそれが領主様の私兵だと分かろうはずも御座いません」


「ぐっ・・」


「ですが、結果として領主様に失礼を働いてしまったことは事実。だからこうして謝罪にまいったのです。直接領主さまに謝罪申し上げたいのでお目通り願います」


「・・・いいだろう。ついてこい」


 男Bはまだ何か言いたそうにしていたが反論の材料が見つからないのか、領主の下へと俺を案内する。こいつチョロすぎだろ、ばーか。


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