第48話 黄泉の帰り道


「《なにすんのさ!私は話を手早くする為に、わざと言っただけなのに!》」


 手甲は喚き散らしていた。縄でがんじがらめにされて尚、大人しくするつもりは無いらしい。


「壊すでありますよ?」


「《え、ちょっ、それだけはやめて、何でもするから!》」


 アローニアに凄まれ、ブルブルと震える手甲。


「あれが本当に魔人なのか……?」


「……あの忙しない感じは本人ですね」


 にわかには信じ難いフュリアスと、呆れるエステル。


「……我々の任務はこれで終わりなのでは?」


「レパルス、そんな訳……でもあれが魔人なら……あまりにも」


 彼らが対応する前に、エステルが瞬殺してしまい、拍子抜けの彼ら。


「《やめてってば!アローニアちゃん!私助けたじゃん!ねぇってば!》」


「なんでもするって言ったでありますな!ならしてもらうであります!魔力を吸うのを止めて、洗脳した人達を、全員返すであります!」


「《やー、その、私も洗脳術使われてたっていうか、黒幕が別にいるって言うか、ぶっちゃけ私の一存だと、何ともならないというか、何とかする為の作戦がまあ……その》」


 クネクネと動く手甲。


「じゃあ、その黒幕とやらを倒すでありますよ!」


「《……マジで?よっしゃ、じゃあ私を装着……》」


「アローニア、ダメ、装備したら」


 ランプラが間に入る。


「《いや、ほら!私の魔力で魔族化したから、回復も戦闘能力も上がったでしょ!?じゃなかったら此処まで来れてないじゃん?……じゃん!》」


「……情報量が多すぎる……何を言ってるのかさっぱりわからない……」


 頭痛を感じるフュリアス。


「《そんなぁ、よくわかんない推理してよぉ、なんかいい感じにわかったような事言ってよぉ》」


「……アローニア、半壊させてもいいかも知れん、魔人なら大丈夫だろう」


「了解であります!」


 アローニアは待ってましたとばかりに、鞄から取り出したトンカチでガンガン叩く。


「《やややや、ごめんて!ごめん!縛ったままでいいから!あ、だめ、割れちゃうっ中身出ちゃうって!やめてぇ!》」


「……一応そのままにしましょう……何かあっても私がどうにかしますから……」


 エステルがアローニアから手甲を受け取る。


「《怖かったぁ〜、ありがとねぇ、聖女ちゃん》」


「おかしな様子を見せれば即座に破壊するので、そのつもりで」


 冷え切った目のエステル。


「《ひゃい……》」


「それで、我々は何をすれば良い?魔人」


「《……取り敢えず次の階層で救出しないと》」



◆◆◆◆◆◆◆◆



 朦朧とした意識の中、ミケは無力に震えていた。


「僕は……止める事も……できないのか」


 死力を尽くし、得体の知れない者の力まで借りて、たどり着いた筈だった魔法は、ただデュラハンを消滅させ、フーカをいたずらに倒れさせただけだった。


 ミケは、憤っていた。

 頭上に広がる魔導王国での戦いに参加する事も出来ず、見ているしかない自分に。


「なんで、なんでだ……フーカ……ちゃん、デュラハンさん……」


「《呼んだ?》」


 聞こえないはずの声が聞こえ、ミケは自分が相当参っているのだと思い込んだ、


「……は、はは、おかしいな、よく聞いた声が聞こえるよ……もう聞こえるはずないのに」


「《勝手に殺すな》」


「ぐぇっ」


 ミケはフーカの声で喋る何かに小突かれる。


「突然先に行ったと思えば、何してるんだ!怪我人相手だぞ!」


「大丈夫ですか?《名も無き精霊よ--》」


 ドタバタと足音と声が近づき、ミケの意識がはっきりしていく。


「--!はっ、僕は…!?」


「《大丈夫?ミケ?》」


 ミケの視界に浮いていたのは、喋る手甲だった、それは虚空塔を共に旅し、よく見た姿。


「デュラハンさん!?どうして!?」


「《んーまあ、いろいろ?》」


「へ……?」


「《細けえこたぁいいのさ!》」


 サムズアップをする手甲。


「《いやそんな事より……私の魔力の塊がどっかに……あ、ちょっとアローニアちゃん、そこの時計みたいなの取って!》」


「うるさいでありますな、これで良いでありますか?……なんでありますかこれ、ひっくり返った時計?」


「そ、それって……」


 アローニアが拾い上げたのは、ミケの魔導具をそっくりそのまま反転させたようなモノだった。


「《そーそー、これこれ、じゃーみんな、そこの抜け殻になってる私の周りに集まってー》」


「どうするつもりだ……?」


「《まーまー、いーじゃないのー》」


 フュリアスの疑念を無視して、手甲はひらひらと自分の抜け殻へと飛び、手招きする


「……魔人の正体は生徒、というのは正解だったのか……だが、この子は……」


「……件のフェリドゥーン家の娘ですな」


「同級生が魔人ですか」


「信じられないでありますな……」


「……現実ですよ。これがフーカ・フェリドゥーン、虚空塔事変を起こした張本人です」


「《ミケもこっちに来て》」


「は、はい」


 そして、フーカの身体の周りに生徒達が集う。


「《さて、今から君達には私の魔力を返してもらうよ》」


「言われなくても返すさ、知らないうちに他人の魔力が自分の中に入っていたなんて気味が悪いからな」


「《そ。それじゃみんな、私の体に触って》」


 指示どうりに触れる生徒。


「躊躇しないのですね、フュリアス様」


 ランプラは揶揄うような目を向ける。


「勘弁してくれ……同じ人間には思えないのでな」


「まあ、それなら仕方ないでありますな。それで、魔人の魔力だけ返すなんて、どうするのでありますか?」


「《──そんなの簡単だよ。だって君達の魔力は、もう殆ど私のしか残ってないんだから》」

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