虚空塔事変前編

第1話 虚空塔攻略戦

「それでは第2次、"虚空塔"攻略戦を開始するッ!」


 一週間ほど前、突如として学園上空に現れた虚空塔、その攻略戦に集められた、教師、生徒総勢150名。


 先行して突入した魔術教師達からの連絡が途絶えてから暫く。

今、最大規模の救出戦が始まろうとしていた。



◇◇◇◇◇◇◇◇


 どうも、こんにちは、こんばんは。

清く正しく美しく、いつも元気な九頭龍風香です。あ、今はフーカ・フェリドゥーンとかいう名前でしたっけね。


《おい、誰に向かって話しておる?》


 私だって壁の向こうに向かって突然の独白とかしたいの!わかるかな?

この気持ち。大胆なメタは超越者の特権なの!


 ライフなんちゃらが入った顔面パンツ野郎とか格ゲーの触手ちゃんとかみたいに?

あー、私もアッセンブルしたいなぁ。


《現実逃避は構わないが、貴様は清くも正しくもないからな。美しさは……》


 はぁーなんだとてめー、このプロ美少女と化したフーカ様が美しくないとでもいうのかぁー。


《お前の魔力光は悍ましいヘドロだからな》


 人が気にしてることをっ……!

ああ、久々に切れちまったよ、屋上行こうぜ屋上によぉ!


《この部屋から出られないだろう?相変わらずお前の頭は祝福されておるな》


 そういえばそうだった。


 そう、私が現実逃避をしていたのは、もう何日もこの"塔"に閉じ込められていたからだ。


イヴだけならまだしも、得体の知れない何かと共に。


「どうか、しましたか、クドゥリュー、様?」


 寄ってきて小首を傾げる何か。

小首と言っていいのか分からないけど。

なんとも奇妙なもの、それは決して人じゃないけど、まるで人のように振舞って、人の言葉を喋る。

ただ一つ決定的に違うのは。


ソレが蠢く肉の塊だという事だ。


「クドゥリュー、様、侵入者、発見しました」


 警報のような音が響く。


《何故こんな事になったのであろうな》


 イヴが白々しく聞いてきた。


 忘れたの?詠唱を間違えて、この最上階に閉じ込められて、寮は半壊。

なんか急に明るくなって、肉塊が現れて一言。


「はじめまして、クドゥリュー、様、魔人の復活、心待ちにして、おりました」


 人違いなんじゃあ、ないかと。

何でその名前を知っているのかって聞いたら


「先日、宣言、を、お聞き、しました」


 なんて訳のわからないことを。


 どうやら、地下から帰った時のアレが聞こえていたらしい。

正直言ってよく分からんので帰ろうとしたが、降りようとすると肉の塊のお友達がわんさか出て来て、出口を塞がれるし、返すつもりはないらしい。


 窓から見ると、やっぱり学園の真上。

というか何回目かな?このやり取り。


《さあ?せっかく貴様がやらかしたのだ、何度でも聞いてやろう。ククッ》


 お前は楽しくても私の精神は削られ続けててるんだからな!


「クドゥリュー、様、お座り、ください、人族の、侵略を、とめて、みせましょう」


 ほら何か勝手にまた迎撃し始めてるし!


《前の教師はどうなった?》


 結局肉の友達に捕まったみたいだし、こりゃどうにもなりそうにない。

というか魔術とか魔法で出れないの?


《この部屋には我輩の魔術や魔法を封じる何かがある、今の我輩ではあの肉の塊はどうにもできん》


 もう仕方ない、じゃあもうあの"肉"が用意した玉座に座って眺めるしかないか。

壁に映し出された、塔を登る先生や生徒達の姿を。



お願いします、誰でもいいので、はやく私を助けてください。



◆◆◆◆◆◆◆◆




「せ、先生?何でこんな事…こんな!生徒を手にかける何てっ!」


「ぐ、ぅぅ」


 遂に魔人の進行が幕を開けたようだった。

空の上に逆さまの塔が出現し、魔導国の人々は塔に魔力を吸い上げられ、魔力の多くない一般人は殆ど行動不能になった。


 数少ない行動できる魔術師達、取り分け教師達が塔へ乗り込むも、連絡は途絶えた。


 そして今、先行して突入した筈の教師と学生が合間見えている。


「メルセン先生……?何でっ!」


 呼ばれた教師は音響魔術の教員、アドルノ寮の担当教員である。


「グオォォォッ!」


 彼はアドルノ寮の担当教員でもある彼は今や目は虚、唸り声を上げ、生徒を痛めつけている。


「やるしかないか《火精の火球を--」


「《セイジャクノ、マモリテヨ、ソノモノノ、オトヲ、ウバエ》」


 屍鬼のような生気のないメルセンが魔術を使った。

塔の広間に発光する蝶が舞い、火球を放とうとした生徒を襲う。


「っーー!! っーー!!」


 蝶の嵐に見舞われた生徒の魔術は発動せず、それどころか声が出なくなった。


「"魔術の無効化"……!!」


 多くの生徒達に動揺が走る。

メルセンの印象は決して強力な魔術師というものではなかったからだ。

ましてや魔術を無効化するなどとは思ってみなかった。


「…メルセン。ボコられたいの……?」


 アドルノ寮の3年生、レニーが怯える生徒達の前に出る。


「うぐ、ぐぁ、クドゥリュー サマ、サカラウモノ ミナ タオス」


「……そう。みんな、めんどくさいけど……ここ任せて、先行って」


「君一人で任せられる訳ないだろ!」


 レニーの無謀な宣言にシリウス寮の上級生達が抗議するが、その事をまるで意に介さず、こう言った。


「死にたい…の?」


 そして威圧するように魔力光を解き放つ。


「あ、あいつは……アドルノ寮の奴だ!巻き込まれる前に逃げた方がいい!」


 何人かの生徒が叫ぶと、レニーがネルセンを引き付けている間に残りの生徒は突破していく。


 残ったのは最初にレニーを止めようとしたシリウス寮の上級生と彼女の二人となった。


「なんで残った?」


「僕はこれでも学園序列では上位の方なんだ。見くびってもらっちゃ困る」


「好きにしたら……でも……邪魔だけはしないでッッ!」


 レニーは本を掲げた。

それは一頁一頁全てがスクロールになっているもの。

そこから魔導具を呼び出し、空中に展開した。


「巻き込まれても……知らないから」


「えっ」


アドルノ寮のレニー。またの名を"魔導具砕き"。


「《爆ぜろガラクタ》」


 レニーが放った魔導具は、メルセンに迫ると凄まじい爆音を立てて爆ぜる。


 その名前の所以、それは魔導具を爆破させ、全てを跡形も無く吹き飛ばす故。

当然人間相手には使えない。


「今日は本気で吹き飛ばす……から」



◇◇◇◇◇◇◇◇



 壁には塔内部での激闘が映し出されている。

ネルセンとかいう教師が、妙な魔術で何人もの生徒の魔術を打ち消していた。


 おお、うちの寮の先生って案外強かったんだ。

ただの寝ぼけた奴かと思ってた。


……でもなんで、塔の守護者みたいになってるの?


「なんで先生と生徒が戦ってるの?」


「捕まえた、人族、大事に、クドゥリュー様、言った、だから、大事に、再利用」


 何日か前に聞かれたような気がする。

たしかに言ったわ。

でもそういう意味じゃないんだわ、あちゃー。

いや、私のせいにしないでよ……生きてんのアレ?


《死んではいないだろうな、死霊術でも流石に生前の魔術を再現するのは至難の業だ》


 死んでないならいいか、正直知らん人達ばかりだし、モモとか、一応レモナとか見てないし。


「新しい、侵入者、来ました」


 まだ突入してくるやついるんだ。

なんでも良いけど早い所私を救出してくれれば--


 壁に映し出されたのは、大きな毛玉、ではなくルルに乗ったモモと箒に乗ったレモナ。


「何やってんの……」


「迎撃、しま」


「ちょっと待った!あいつらは……」


 傷つけるな、と言おうとしてある事に気が付ついた。レモナは外出禁止を命じられる筈。

なら、部屋の厳重警備を突破して来てるだろう。


つまり、あの子を捕まえさせれば、あの校長とかも出てくるんじゃ?我ながら天才な発想。


「よし!最優先で娘達を捕らえろ!そして捕らえた事をこの国に知らしめるのだ!」


《何を言っておるんだ?貴様》


 救出部隊をもっと送ってもらう為だよ。


「了解、しました、最優先、捕獲」


 さあ!私を早く助けてくれ!勇者達よ!

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