ピンで留められた蝶は死んでいる 備忘録あるいは妄想

一田和樹

小説、書評、批評、評論、レポート

拙著の感想を書いてくださった方のブログを拝読しました。


「書評エッセイ」の思想ーー書評と批評のはざまで考えたこと

http://blog.livedoor.jp/macumeld/archives/2017124.html


一読して思ったのはすごくちゃんと考えている方だ、というシンプルな感想でした。「自分も同じだ」と共感する箇所も多々あり、非常に参考になりました。翻って自分のことを考えて、はたと気がついたのです。


小説、書評、批評、評論、レポートのそれぞれで本を刊行しているのですが、その区別をきちんと考えたことはありませんでした。私は実作はするけど理論は学ばないという完全な我流を通してきました。前掲のブログを読んで、それぞれになんらかの違いがあると考えている人が多いことや、真面目にその違いについて取り組んでいる人がいることを知りました。いや、なんとなくは知っていたのですが、あまり気にしたことがなかったんですね。


私の書く文章はどのような内容であっても、「自分がおもしろいと思う」ようにしか書きません。小説、書評、批評、評論、レポート全て同じです。違うのは題材だけです。自分の頭に浮かんだ物語を題材にすると小説になり、1冊に本だと書評ある意批評になり、複数の本だと評論になるくらいの違いです。


書評 「超限戦」時代、軍事大国アメリカの迷走 - 書評「大統領失踪」 https://scan.netsecurity.ne.jp/article/2018/12/05/41697.html

 死に瀕する民主主義。一人ひとりが民主主義を守る自覚を ~『民主主義の死に方―二極化する政治が招く独裁への道―』書評 https://hbol.jp/180606

評論 『サイバーミステリ宣言!』(KADOKAWA)

レポート 『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)


全部自分のおもしろいものを書いているので、素直に元の小説を紹介するようなものがありません。できるだけどれも自分の作品として成立するようにしています。書評だって題材に過ぎないので、あくまで主体は私がおもしろいと思うことを読者に伝えることです。なので書評は、おもしろい本の手引きであるべきという考えとは真逆に近いです。


ブログでは「書評エッセイ」という言葉を用いていますが、私の場合は「書評小説」とでの言うべきでしょうか。上記のサンプルを見ていただくとわかるようにもともとの本を大きく逸脱しています。存在しない本の書評は小説の一種(メタフィクション)ですが、それに近いような気がします。レポートも同様です。


『大ベストセラー『ファクトフルネス』に抱いた、拭いきれない違和感と困惑』

https://hbol.jp/187703


上記を読んでいただくと、メタフィクションと言った意味がよりわかりやすいと思います。このタイトルは編集部がつけたもので、私がつけたタイトルは、『君はウェイドになれたか?』です。ウェイドは、映画『レディ・プレイヤー1 』の主人公。逆転の発想でVRゲームに仕掛けられた壮大な謎を解いた最初の少年です。『ファクトフルネス』は全然違う本に見えてきます。念のために申し上げますと、これは同書に存在するトラップのように言える瑕疵のせいなので意図をねじ曲げているわけではありません。同書の趣旨に矛盾する記述がいくつも存在する以上、なぜそうなっているかを解釈するのは読者の自由です。本書の趣旨と矛盾する箇所を書いたのは、私でなく著者自身なのですから。

念のための申し上げておくと『ファクトフルネス』は示唆に読んだよい本です。ただ、盲目的に書いてあることを信じるのも、瑕疵を見つけてあげつらうのもよくないと思います。『ファクトフルネス』の精神で瑕疵を補完してゆくのがおそらく一番正当なアプローチで、それ以外にもいろいろなアプローチがあってよいと思います。大事なのは前向きでおもしろくなること、できれば生産的であることです。


などということを、牛すじを煮込みながら考えた午後でした。ほぼ毎週牛すじを4時間以上かけて煮込むんですよ。

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