冬の雪山2
というか天使でなければ____人外ではなければ、この気温の|下(もと)女の子がワンピース一枚で雪の中に潜って大丈夫なものなのだろうか………いや、その前に天使に暑いとか寒いとかあるのか?
目の前で手をぶんぶん振って何かを伝えようとする少女をぼーっと見ながら………。
何かを伝えようと?
「話を聞けよぱーんちっ!」
そんな言葉と一緒に飛んで来る右手をあごでで受け止める。
それでもまだ少女の口は止まらない。
「人の話を聞くときは体も目もこちらを向ける。耳ではなく心で聞く。これ常識! だから今のお姉さんからのパンチは体罰ではなく
立ち上がっても俺の胸元当たりまでしかない身長と、その幼い顔立ちからお姉さんには見えないし、
ツッコミどころ満載な登場に『なんでやねん』の一言も言いたくなるが、生憎俺は初対面の美少女の腹に手の甲をぶつけれるほど強靭なコミニュケーション能力を有してはいない。
「ごめんね?それより大丈夫?空から落ちて来………」
「そこはなんでやねんやろがいっ!」
………………………。
出来るだけ優しく喋っていた俺の言葉を遮り、慣れていない関西弁を発し、俺の腹に勢いよく手の甲をぶつけた少女は初対面の俺相手にさらにまくし立てる。
「私はお姉さんってほど身長も高くないし、何より童顔だろ! 最後には体罰教師の言い訳をコピペしたかのようなセリフ………なんで『なんでやねん』の一言も出てこないの!」
月光を反射する金髪を振り乱し一生懸命説得され、俺は気づいた。
コイツめんどくせぇ。
確かにはじめはめちゃくちゃ可愛いと思ったし、というか今なおもうロリコンでもいいかなと思ってはいるが。
そんな恵まれた容姿を台無しにする程にめんどくさい。
それはもう可愛さとめんどくささを足すとマイナスになるレベルだ。
そんな子供と言うには幼過ぎず、大人と言うには鬱陶しい元気な少女に____怒ったように頬を膨らませ、目は隠しきれないほどに笑っている、簡単に言えばドヤ顔がウザい少女に俺は言う。
「結局どなたなんですか」
「もーっ、つれない人ですね。そんなんだとモテませんよ?だいたい………」
「どなたなんですか?」
「いひゃい!いひゃい!いひゃい!おほめのほほを力いっぱい鷲掴みにするんじゃない!」
威圧的に言い直し少女の顔を鷲掴む。
じたばたと暴れて抵抗するが、非力な帰宅部でも少女よりかは力が強く、一向に埒が明かない。『もう諦めて正体を教えろ』そう言おうとしたその時だった。
彼女の体が発光し始める。
いきなり空から落ちてきて、二言三言、会話とも言えない茶番を繰り広げると、何も言わずに魔法少女のような変身シーン。
怒涛のペースにもう脳みそも追いつけず、俺は呆気に取られながら少女から発せられる青白い光を見ていた。
その光はだんだんと大きさをまし、少女の顔を掴んでいた右手を離し光から目を守る。
少女の身の丈ほどだった光はとうとう俺の目線の高さ程にまでのぼった。
それからだんだんと光は弱まっていく。
「せっかく気を利かせてあげたのになんで結局こうなるのよ」
その透き通る声は俺の瞳に写した、光の中のシルエットからだろう。
先程の少女の声より少し大人びたその声はどこまでも響き渡りそうな綺麗な声だった。
どうやら女性らしいそのシルエットから放たれる光はだんだん微弱になっていき、やがて光は失せた。
誠に信じられないが、たぶんあの少女が成長したあとの姿であろう彼女は言葉の通り人間離れした美しさだった。
白いのに不健康な印象は与えないきめ細やかな肌、整った鼻筋とうっすらと色ずくピンク色の唇。
その周りにいかなる絶景があろうと____その背後に壮大な樹氷の森が広がっていようと問答無用でこちらの視線を奪う紅の瞳。
月光が照らされ
一筋の潮風が吹き抜け長い金髪は俺を縛るようにこちらになびく。
美の具現化のような彼女を前に俺は言葉こぼすしかなかった。
「………天使だ」
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