第1話

 百鬼夜行が行われてから数週間が過ぎ三学期を向かえていた。


 冬もあっという間で、季節は冬と春の間。朝は寒く、昼は暖かく、また夜は肌寒い季節。

 少しずつだが、春の芽吹きも感じられる。

 冬休みも終わったので、三学期を向かえた真司は、学校指定の学生鞄を持って自身の通う宮山台みややまだい中学校へ向かっていた。


「うぅ……朝はやっぱり寒いなぁ。菖蒲さん達は、今頃、炬燵の中かなぁ?」


 炬燵の中で、菖蒲が白雪達全員と一緒にお茶を飲むのが想像できて、思わず微かに笑ってしまう。


「ふふっ」


 真司の通う中学校は、泉ヶ丘地区の宮山台みややまだい竹城台たけしろだいと、その周辺の旧村部を校区となる最初の中学校として設立された公立学校。

 エスカレータ式もない普通の中学校である。他にも、三原台みはらだい中学校・晴美台はるみだい中学校等があるが、宮山台地区の子達は、この宮山台中学校へ通っている。

 理由は簡単。ただ近いから。真司もその一人である。

 家から歩いて5~10分程度の所にあるのだから、そこの中学を選ぶのは当たり前に近い。


「もうすぐ春だけど、今年の春で中学二年かぁ」


 ほんと、あっという間だな……と、ボソリと呟く真司の肩を思い切り誰かがぶつかって来た。

 その突進ときたら、まるで、陶器の付喪神である雪芽こと愛称:お雪みたいだった。


「真司、はよーっ!!」

「うわっ!? ……って、荻原かぁ」

「かぁって何やねん。失礼やな〜」


 彼の名前は荻原海おぎはらかい

 小柄で元気な男子学生。色素の薄い癖っ毛のあるふわふわな髪や素直な性格が犬みたいなので、周りからは『うみちゃん』と言われて何気に可愛がられている。スポーツ全般は得意だが、勉学に対してはからきしだ。


「ビックリしたし、てっきり知り合いかと思って」

「ふぅ〜ん」

「よ、宮前。おはよ」

「神代もおはよう」


 もう一人、反対から声をかけて来た人は神代遥かみしろはるか

 背が高く切れ長な目は、とても中一には見えない。物静かなのも大人っぽい印象を与えているのだろう。

 学年優秀、スポーツ万能な完璧な遥は、女生徒からいつもキャッキャと騒がれている。所謂、モテモテ男子というやつだ。

 彼等は、転校してきた当初、なかなか馴染めず一人だった真司に話しかけてくれた、大阪での初めての友達。


「宮前、肩、大丈夫か?」


 真司は、苦笑しながら肩を摩る。


「うん。こういうの慣れてるから」


(お雪ちゃんで慣れたって言えないし。というか、慣れるのもどうかと思うんだけどね……ははは)


 苦笑いをしていると、遥が海の頭を小さく小突いた。


「いてっ!」

「勢いありすぎや。宮前にちゃんと謝れよ?」


 幼馴染みである遥から説教され、海は不貞腐れた顔になる。


「……ちぇ……ごめん」


 真司は慌てて手を横に振り「謝らなくていいよ! ほんと、大丈夫だから!」と海に言う。その言葉を聞いて安心したのか、海はパァっと嬉しそうな顔をした。

 まるで、犬が大きく尻尾を振っているのが見えるぐらいだ。


「ほらみろ! 大丈夫って言ってるや——」


 海の言葉を遮り、また、ポカっと頭を小突く遥。


「いだっ!」

阿呆あほう


 そんな二人のやり取りを見て不思議と可笑しくなり、真司は、つい笑い声が口から漏れてしまった。


「あははっ、二人共、本当に仲がいいよね」


 そう言った瞬間二人は揃って真司の方を向き声を合わせ「よくねーよ」」と言った。

 自然と声が合わさったことに海は驚き、遥は少し嫌そうな顔をする。


「なっ!? 俺の台詞と被るなやっ!」

「それは、こっちの台詞や。阿呆」

「あはははっ」


 海と遥は睨むように言い合いを始めた。

 かと言って、これは本気の言い合いではない。お互いからかい合うような小さな喧嘩。喧嘩友達っぽい感じだ。

 傍から見たら可愛らしい痴話喧嘩にも見える。見ていた真司はまた笑い出し、三人は並んで学校へ向かったのだった。

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