第1話

 気がつくと、辺り一面真っ白な世界だった。

 私は〝誰〟と思ったが、ソレは、ふと頭の中に浮かんだ。


 ――白雪。


「私は……白雪……」


 不思議と直ぐに、これが私の名前だと理解した。

 すると突然、真っ白な着物を着た女性が目の前に現れた。青みかかっている髪色はとても綺麗だった。


 ――彼女は〝私〟と同じ。


 何となくそう思った。理由はわからない。すると、彼女は私に手を差し伸べてきた。

 私はそれを受け入れ、手を握り返す。彼女の手は酷く冷たかった。

 それはきっと、私も同じだろう。彼女は手を繋いだまま、私にこう言った。


「あなたは、今日生まれた小さな〝雪女〟。冬将軍の娘です。そして、ここがあなたの家になる〝雪の国〟」


『生まれた』と、彼女は確かにそう言った。

 そう。私は、さっき生まれたのだ。

 私は彼女と手を繋ぎ、小さな素足で雪道を歩く。冷たさが足から伝わるが、〝冷たい〟と思うだけで、不思議と痛みは感じなかった。

 私は後ろを振り返る。そこには氷のように透明でほんのりと青い華が咲いていた。

 それはとても大きい華――幼い子供一人分の大きさだった。

 彼女は、私がその華を見ていることに気づいたのだろう。歩みを続けていた足は止まり、私にその華について説明をしてくれた。


「あれは、雪華せつかという華です。あなたや私たち雪女は、あの華から生まれるのよ。ふふふっ」


 彼女はそう言って私に優しく微笑みかける。彼女の笑みは、とても優しく、可愛らしい印象があった。

 そして、なによりも温かい微笑みだった。


 これが私の親代わりとなってくれた雪女との出会いであり、私のことを理解してくれるただ一人の大切な家族。

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