第2話

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『さすが菖蒲だ』と、言うべきだろうか? 真司は菖蒲の店に向かう度に、妖怪達から声をかけられ色々な物を貰っていた。


「あら? あんた、菖蒲様のところの人間じゃないか。菖蒲様には色々お世話になっているし、今日はめでたい日やから、これ持って行き」

「おーい! お前、菖蒲様の坊やろう? これ持っていけ。菖蒲様に宜しく言うといてや~」


 などなどなことを言う妖怪に真司は色々な物をお裾分けしてもらい、今では真司の両手が塞がる状態になっていた。

 そんな真司を見て勇が深く頷く。


「いや~、モテモテやな!」

「菖蒲さんがね……」

「いやいや、真司もモテモテやと俺は思うぞ!」

「そう言われましても……でも……さすがにこの量はちょっと重いかも……。よいしょっと」


 真司がそう言うと、勇が何かに気づき勇の足がピタリと止まった。


「お、あれは……」

「え、何?」


 胸の前で物を抱えているので、あまり前が見えない真司は勇の声に反応する。


「いやな、あそこにおるの星やないかと思ってな」

「え、星くん?」


 すると、勇は大きな声で星の名前を呼んだ。


「おーーい!! 星ー!!」


 星は名前をを呼ばれ真司たちの方を振り向くと、トコトコと歩きながら近づいてきた。


「……勇……真司お兄ちゃん」

「よっ!」

「……ん」


 星は勇を見下ろし無表情で小さく頷く。


「こんにちは、星くん」

「……ん」


 真司も星に挨拶をすると、星は勇と違い少し照れたように小さく頷いた。


「なんやなんや。俺の時には、そんな恥じらいなかったのに……拗ねるぞ」

「……お好きにどうぞ」

「冷たっ!! 相変わらずクールやなっ!!」

「……それより。その荷物……どうしたの……?」

「って、無視かーいっ!!」


 星の足にツッコミを入れる勇だが、それをヒラリと躱す星はジッと真司を見た。


「これ? 菖蒲さんのお店に寄る途中に、色んな人から声をかけられて貰ったんだ」

「……へぇ」


 すると、星は真司が抱えていた荷物を少しだけ持った。

 真司かキョトンとした表情で星を見る。どうやら荷物持ちを手伝ってくれるらしい。


「……手伝う」

「ありがとう、星くん」


 真司が星にお礼を言うと、星は少しハニカミながら黙ったまま頷いた。


「そう言えば、星くんは商店街に何か用事でもあったの?」

「……本屋さん」

「本屋? あぁ、そう言えば、いつも本を読んでいたもんね」


 真司がそう言うと、勇が腕を組みながら二・三度頷いた。


「星は、昔から本が好きやからなぁ~。本の虫というやつやな!」

「……虫じゃない」


 また一人同行者が増え、真司たち一行は菖蒲の骨董屋へと向かったのだった。


「それにしても、相変わらずこの時期になると祭りみたいやなぁ~」

「……いつもより……賑やか」

「凄いよね。提灯とか飾っているし」


 二人と一匹は商店街の表通りを歩き、見渡しながら言った。


「今日、明日はヤバイぐらい祭り騒ぎにな――っ!?」


 突然、言葉が詰まり何かに対して身構える勇に真司は首を傾げる。


「どうしたのかな?」

「……わからない」


 真司と星が話す中、勇は立ち止まはら、ブワッと尻尾の毛を逆立てた。


「な、なんや……ごっつう、嫌な予感がする!」

「「??」」


 星と真司は同時に首を傾げる。すると、真司達の後ろからバタバタと走る音が聞こえてきた。

 真司達は、その音と共に振り返る。


「ねーこーーーぉ!! いっさみーー♪」


 そんな声が聞こたと思ったら、それは風のように現れてはあっという間に勇を抱きしめた。


「にゃぎゃぁぁぁぁぁ!!」

「ねこねこねこーー♪ 勇、勇~♪」


 真司は、あまりの素早さに何が起きたかわからず目を瞬きする。


「えっと……お雪ちゃん?」


 お雪は勇をムギュムギュとグリグリとしながら真司を見る。どうやら、真司がいることに今気づいたらしい。


「あ、お兄ちゃん! 星くんもいるー♪」

「にゃ……だ、だずげ………ガクッ」

「あ!」

「……ご臨終」


 勇が泡を吹きながら力無く崩れていると、今度は遠くの方からこちらに向かってお雪の名前を呼んでいる声が聞こえてきた。


「雪芽ー」

「あの声は、白雪さん?」


 真司がそう言うと、息を切らし小走りで走ってきた白雪が商店街の人混みもとい、妖怪混みからやって来た。

 白雪は手を膝につき、息を整える。


「はぁ、はぁ。きっ、急に走って行くから……何事かと……もう……」

「あの……白雪さん、大丈夫ですか?」


 白雪は顔を上げる。余程疲れたのか、白雪の顔色が少し青くなっていた。


「……あら? 真司さん、こんにちは」

「あ、はい。こんにちは。……じゃなくて、大丈夫ですか? すごく顔が青いですけど」

「えぇ、何とか。運動は少々苦手でして――って、雪芽?! その腕の中で気絶しているの、勇さんじゃっ!!」

「そだよ~♪」


 すると白雪の顔は更に真っ青になり、慌ててお雪から勇を取り上げた。


「も、もうっ! あれほど、強く抱き締めちゃダメって言っているでしょう?! あぁっ、勇さんっ! 生きていますかっ?!」


 勇を抱き上げる白雪は、ユサユサと勇を揺さぶる。


「う、うーん……」

「勇さん、しっかりしてください! 勇さーん!!」


 更に強く揺さぶる白雪。気を失っていた勇は目を覚ますが、白雪は勇が目を覚ましたことに気づかなかった。

 目を覚ましても、まだ揺さぶられる勇の顔が段々青くなる。


「う、うぷ……酔うから、や、止めて……」

「え? あっ!」


 白雪ハッとし、勇が起きたことに気がつくとパッと手を離した。


「す、すみませんっ!」

「ぎにゃっ!」


 白雪が手を離し、顔面から勇が落下する。真司はそんな勇を見て思わず苦笑した。


「……痛そう」

「あらら~」


 星とお雪がそう言うと、白雪はまた慌てて勇を抱き上げる。


「あぁ! す、すみませんっ! 私ったら!!」

「お、起きてるから、も、もう許して……下ろしてぇ……!」


 白雪は、シュンとしながら勇をそっと地面に下ろす。


「す、すみません……」


 白雪が謝ると勇は白雪から少し距離を置き、「な、なんちゅう恐ろしい姉妹や……。とりあえず、酒が無事でよっかった……」と、涙目になりながらボソリと呟く。

 それをたまたま聞こえていた真司は内心「確かに似ているし、姉妹っていうのも頷けるかも」と、思ったのだった。

 それが少しおかしく思いクスクスと笑っていると、真司は勇に猫パンチをお見舞いされた。


「おい、何、笑ってるねん! こっちは大変なんやぞ!」

「あ、ごめんなさい」


 一応謝るが、それでもどこか可笑しく思い笑いが止まらない真司だった。



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