16

「わかった。いいよ」

 いつものようににっこりと笑ってよぞらは言った。

「なにか話をするためにきたみたいなのに、ごめんね。よぞらくん」かげろうは言う。

「ううん。大丈夫」よぞらは言う。

 それから二人は「こっち、こっち」とよぞらの黄色いコートを引っ張って、自分の部屋の窓際までかげろうは移動をした。

 それから「ほら、あの光だよ。あそこに奇跡の星の光があるんだ」とかげろうは真っ暗な空を指差してよぞらに言った。

 でも、「星? 星の光なんてどこにもないよ?」と一眼レフのカメラを両手で持っている、よぞらは首をひねりながら言った。

「え? あれ?」

 かげろうは空を確認する。

 すると確かによぞらの言う通りに、そこにはもう『かげろうのみた奇跡の星の光』はなくなっていた。

 そこにはいつもの、かげろうが見上げる、幽霊(ホロウ)の街の真っ暗な星の光のない『永遠の夜の世界』が広がっているだけだった。

「……星の光。なくなっちゃった」

 窓枠に両手をついて、身を乗り出すようにしながら空を見ていたかげろうは、しょんぼりした声でそういった。

「そんなことないよ」

 と、落ち込んでいるかげろうによぞらは言った。

 かげろうはよぞらを見る。

「一瞬だったけど、かげろうくんは星の光を見たんでしょ? それは『とても幸運なこと』だよ。その今は消えてしまった星の光だって、もしかげろうくんが見つけなかったら、永遠に誰にも、その存在を知られないままだったかもしれないんだから、それはすごく幸運な出来事だったと思うし、とても価値のあることだったんだと僕は思うな」

 へへへ、と笑いながらよぞらが言った。

「……うん。ありがとう。よぞらくん」

 にっこりと笑ってかげろうは言った。

 星の光を写真にとってもらえなかったことも、それに、あの奇跡のような星の光が本当に一瞬で消えてしまったことも、すごく残念だったけど、『確かに僕はあの星の光をこの目で見た』。あの星の強い光を、希望の明かりを、僕は今も覚えている。目に焼き付いている。たとえ写真に取れなかったとして、一生忘れることはないだろう。

 かげろうはそう思った。

 そう思うと、なんだかとっても元気が出てきた。

「よぞらくんの言う通りだね」

 かげろうは言った。

 よぞらはにっこりと笑って、「でも、本当は僕もその星の光を見たかったし、このカメラで写真にも撮りたかったんだけどね」とかげろうに言った。

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