12
「私の脚力で、向こう側までジャンプできるかな?」ジラは言う。
『おそらく、無理でしょう』みちびきが言う。
「……そっか。わかった」
ジラはすぐに自分の意見を引っ込めると、一度、崖の向こう側の闇をじっと、まるで猫のように睨みつけてから、その場に立ち上がり、ポケットから小さな丸いコンパスを取り出した。
しかし、蓋を開けると、コンパスはぐるぐると回転しているだけで、その道具としての役目を果たしてはいなかった。
念のため、腕時計で時刻を確認してみると、ジラのお気に入りの腕時計はいつの間にか、その時間を測る昨日を止めていた。
「ふー。なるほどね」
ジラはそう言って、両手を軽く上げながら、小さなため息をついた。
『どうかしましたか? ジラ』
「なんでもないよ」
ジラは言う。
それからジラは、崖のふちから少し距離を撮った場所を、崖の穴の横を通るようにしてまた風のような速度で走り始めた。
移動する方向は自分のかんで決めた。
それからしばらくの間、静かな闇の中を小さな手持ちライトの明かりだけを頼りにしてジラが走り続けていると、ふいにみちびきが『ジラ。目的地が近いようです』とジラに声をかけた。
ジラは足を止めて、ライトの明かりを切った。
それで世界は真っ暗闇に包まれた。
ジラは一度、その場で深呼吸をして、それから天上に輝く一つの星の光を眺めた。それからジラは、暗闇の中を静かに、ゆっくりとした足取りで前に前に歩いていく。
するとしばらくして、ぼんやりと、ジラの見る暗い大地の上に、幾つかの光る星の光が見え始めた。
ジラの開けた天上に光る星の光ではなく、不思議な地上で輝く地下の星々の光。でも、その星々の光には、(確かに綺麗ではあるけれど)ジラの開けた天上に輝く星の光のような純粋な自然の美しさのようなものは感じられなかった。
それはまちがいなく、人の作り出した人工の光だった。
「あった。……情報通りだ」
と、足を止めて、ジラは言った。
『はい。まちがいありません』みちびきが言う。
「あれが、幽霊(ホロウ)の街だ」
なんの感情もない声でジラは言った。
すると、地下の世界に吹く風が、ジラのマゼンタ色をしたポニーテールの髪を揺らした。
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