5話

ブブーっ


「あーっ」

 部屋の中に、ブザーとコキノレミスの悲鳴が響き渡った。不正解だったのだ。

「まあ、さすがに難しかったかな」

「うーん……もっと、つよくならないと」

「そうだな」

 進めないのだからしょうがない。テントを広げて、宿泊の準備をする。

 こんなとき、「あなたが解いてくださいよ」と頼む冒険者もいる。しかしそれは、俺の役割を越えている。あくまで指導することが仕事であって、パーティーの一員になったわけではない。扉を開けるのは、冒険者でなくてはならない。

 かつて冒険者として参加したときは、もっと実入りもよかった。けれどもだんだん、「フリソスなら解いて当たり前」と思われるようになり、難しい問題に悩んでいても誰も気遣ってくれはしなかった。解けなければ、冷たい視線を浴びせられる。やりきれなかった。

 今のところコキノレミスは、自分が解いて扉を開けるという以外の可能性を考えていないようだ。とてもよい。

「よし、将棋するか」

「うんっ」

 盤を広げて、駒を並べる。駒の動き方は、すでに完璧に覚えている。ここから先は、実戦だ。まずは、こちらの王様と歩以外の駒を全部落とす。そうとうなハンデ戦だけれど、なかなかどうして、初心者が勝つのは容易ではない。

「最初は自分で考えて指してみよう。反則の時だけは戻すよ」

「わかったっ。よろしくおねがいしますっ」

 コキノレミスは呑み込みが早い。始めたばかりだというのに、ちゃんと飛車や角が活躍できそうな手を指してくる。

 とはいえこちらも熟練の技、するすると玉が逃げて、歩を垂らして、なんやかんやで勝ってしまう。

「ふりそす、すごい」

「まあ、これぐらいは。……ん」

 空気が、少し冷たくなった気がした。嫌な雰囲気だ。こういうのは、当たる。

「どうしたの」

「何か、あるかもしれない。絶対テントから出るなよ」

「わかった」

 このテントは高級品で、そこら辺のモンスターの攻撃は防ぐことができる。ただ、未知のモンスターとなると話は別だ。何が起こるかわからない。

「一応準備しておこう」

 駒袋にしまっていた、落としていた駒を盤に広げる。いざという時の備えだ。


 ブォォォォォォ


 明らかにやばい音が聞こえてきた。テントが揺れる。

「わっ、わっ」

「聞いたことあるわ、これ」


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