第8話 火事

 「火事を手伝いなさい」

 目覚めから母の耳障りな声がする。休日なのだから、少しぐらいゆっくりさせてもらってもいいだろう……。

 結局、母の手伝いをすることにした。俺は母の運転する車に乗り込み、まだ夜の明けない道路を移動した。名前も知らない星が、鮮明に見えた。

 数十分後、母の車は見知らぬ一軒家の近くに停車する。俺は降車すると、車の後部の荷台を開けて、そこからポリタンクを二個持ちだす。

 母が準備する間、俺はポリタンクを抱え、中のガソリンを見知らぬ一軒家の周りに撒く。全部のガソリンを撒き終えると、火種を持った母が、そこに火を放った。

「孝行息子だよ、あんたは」燃え盛る一軒家を後ろ手に、母は車内で言った。

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