第25話 素敵な(後編)

 極北にいたはずの俺の体は、一瞬の後に我が家に帰っていた。

「誰かがベルを鳴らして、出てみたらおっきなプレゼントボックスが置いてあったのよ。不思議に思って開けて見たら、雪まみれのあなたが入ってて、私もう……」

 差し出されたホットココアを飲みながら、俺は妻の話を聞いていた。

 妻の部屋で介抱されていたとき、階下からドタドタと駆ける音がした。直後、

「おとうさん帰ってきたの!?」開かれたドアに少年の姿が見えた。その姿に俺はしばし唖然とした。精悍せいかんさと幼さの混じったような少年は——ユキだった。

「毎年『お父さんと過ごしたい』ってサンタさんに願ってたから、大喜びしてるわ」

 妻が微笑んだのを見て、思わず俺も顔を綻ばせる。今日の仕事は、素敵なサンタによって妨害された。今更現地には戻れない。今日ぐらいは団らんを味わおう。

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