第3話:空城の計
――ポメラニア帝国歴259年4月17日 正午過ぎ 火の国:イズモ:ゼーガン砦にて――
「カーパパッ! すっかり騙されてしまったダワス。策士、策におぼれるとはまさにこのことダワス!」
ショウド国軍:
さらに不気味なことに、撤退するならば、敵に砦を使わせないためにも火くらい放っておくのが当たり前である。まあ、火を放ったところで、
ならば伏兵が砦内に配置されているのかと思い、10名の
「これは伝説に謂れし『空城の計』なんダワス。疑心暗鬼に陥った将がついには城を攻めるのをやめるのを目的にしているのダワス」
「そうなのレスカ? でも、伏兵が潜んでいる可能性は捨てきれないレスヨ?」
高笑いをする横で心配そうな顔つきの
しかし、伏兵による襲撃も無く、やっとクラーゲンはほっと胸を撫で下ろすのであった。
「さあて。空城の計はただの時間稼ぎダワス。問題は奴らがどちらの砦に向かったか? クラーゲン。お前は南の砦に向かうダワス。ワテは西の砦へ向かって、奴らを根絶やしにしてやるのダワス!」
ゼーガン砦を手に入れたことに意気揚々としているサラーヌであったが、そこに水を差すが如くにクラーゲンがとある進言を彼にする。
「お、お言葉ですが、ゼーガン砦を落としたサラーヌさまはこの
サラーヌはなるほどなるほどと思ってしまう。クラーゲンは保身に長けた男だ。いくら、手柄を渡したくない相手がいたとしても、自分たちだけで手柄を占有してしまえば、要らぬ恨みを買う可能性があると、彼は指摘しているのである。
確かに、ここまでの戦いで、マッゲ=サーンとミッフィー=ターンを袖にしまくってきた、サラーヌは。この追討戦で少しくらい手柄を譲っても良いだろうとサラーヌは考えたのであった。
かくして、逃げるゼーガン砦の兵士たちを捕縛、さらなる打撃を喰らわせる役目は
マッゲは西の砦へ、ミッフィーは南の砦へ急行することになる。だが、マッゲにとっては面白くともなんともない役目であった。
「敗残の兵を追い回すなど、手柄稼ぎに躍起になっている馬鹿しか喜ばないのでゴザル!」
「まあまあ。落ち着くノ~。もし、上手く敵将を捕らえられたら、あたしたちはネーロ=ハーヴァさまからお褒めの言葉をもらえるノ~。無駄飯喰らいからは脱せられるノ~」
ショウド国の国主であるネーロ=ハーヴァは、ゼーガン砦を手に入れた武勲1番のサラーヌにやきもきとした気分であった。しかも、その腹いせにマッゲとミッフィーに『この無駄飯喰らいたちがっ! サラーヌたちよりも手柄をあげぬかっ!』と八つ当たりする始末である。
そもそもとして、この
ネーロ=ハーヴァはショウド国の国主ではあるが、暗愚として揶揄される存在であった。それゆえ、宮中はそんなネーロに対しても忠誠を誓うネーロ派と、サラーヌの一族を次の国主へと迎え入れようとするサラーヌ派が存在したのである。
その2大派閥よりかはかなり小さな勢力であるが、マッゲとミッフィーを後押しするマッゲ派閥も存在する。しかしながら、2大派閥の敵としては見られていないのが現状であった。
とにかく、マッゲとミッフィーの両名は文句は言いつつも、任せられた仕事は遂行しようということでまとまり、マッゲはゼーガン砦より西へ、ミッフィーはゼーガン砦より南へ、敗残兵を追い始めたのであった。
ここまでで、アキヅキたちがゼーガン砦から撤退を開始してから1時間の開きがあった。マッゲとミッフィーたちは進めども、なかなかに彼らの姿は見えないのであった。
「くっ。奴らを追い始めてからかれこれ30分が経過したのでゴザル。ここからは森が続きそうなのでゴザル。森の中を突き進むのは愚策に感じるでゴザルが……」
なんと、アキヅキたちが1時間かけてたどり着いた森の入り口までの道程を、
アキヅキたちは知らなかった。予想以上の猛スピードで自分たちの後ろにショウド国軍が迫ってきていることを。
「よし……。ここは兵に負傷者が出るかも知れぬが、森をまっすぐに突き進むのでゴザル。やつらがいつ頃、ゼーガン砦から逃げ出したかはわからぬが、こちらも犠牲なしで済まそうというのは虫が良すぎる話なのでゴザル!」
マッゲの判断は正しかったと言えよう。彼らが森に入ってから1時間も経とうとした時、ついにアキヅキ隊の最後方の兵士たちが見えたのである。
マッゲ隊はガオオオン! と
「ちっ! もう少しで森を抜けるってところで、追いつかれちまったかっ! あちらさんは空城の計をあっさりと見破りやがったってか。本当に可愛げの無い将が、あちらさんには居るもんだなっ!」
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