第八章 踊手
第一話 上陸
「晴海さん。本当に、このままで・・・。行くのですか?」
「うん。だって、夕花が負けたのだから諦めようね。大丈夫。駿河が近づいてきたら着替えるのだし僕以外に夕花のそんな姿を見せたくないからね」
「解っていますが・・・。うぅぅぅ。恥ずかしいです。全裸の方が恥ずかしくないですよ・・・」
夕花も今の格好になって混乱している。晴海の前で裸になるのに慣れているので、裸の方が”まし”だと思ったのだが、客観的に考えて裸でクルーザーを動かすのはシュールだし危ない感じがする。
「大丈夫だよ。見ているのは僕だけだからね」
「それが、恥ずかしいのです!」
夕花は晴海とゲームをした。負けず嫌いな夕花は、晴海に勝てなくて、何度も挑戦した。
最後の挑戦で、負けたら恥ずかしい罰を受けてもらうと言われて承諾して・・・。負けたのだ。
晴海が出した罰は、シンプルな物だった。夕花の名誉の為に罰の内容は伏せるが、大胆に晴海を求める夕花が恥ずかしがるような罰だ。
屋敷がある島から離れたので、自動運転に切り替えた。ビーコンを6箇所設定した。夕花が操舵するクルーザーはビーコンが10箇所設定出来る。駿河までの経路を5分割してビーコンを設定した。
ビーコンまで移動して距離と時間を確認して、次のビーコンまで移動する。
これを繰り返せばいいのだ。ビーコンと同時に、駿河湾を管理する州国に航路予定を提出する。大型船などとすれ違う場合には注意が勧告されるので、やっておくほうがいい。識別番号も付与される。識別番号を持っていれば、近づく船に警告を発せられる。晴海と夕花は、警告を自動で行う様に設定してある。
自動運転に設定してから、二人は船室にはいった。
「夕花。こっちにおいで」
「はい」
夕花は、見えてしまいそうな。見えていると行ったほうが良いだろうスカートを抑えながら晴海の膝の上に座る。晴海が指示したからだ。身体を捻って、夕花は晴海の身体を自分の足で挟むように座る。晴海も、船室で着替えるつもりだったので、屋敷に居るときと同じ格好だ。ダウンだけを羽織っている。
夕花が晴海に抱きついた。キスをおねだりしたのだ。夕花も屋敷に居るとき同じで下着を付けていなかった。晴海を刺激して、晴海が反応してくるのを待っていた。
「奥さん?」
「はい。旦那様。旦那様が悪いのです。僕にいろいろ教えて、今日もこんなに恥ずかしい格好をさせて・・・。旦那様が悪いのです」
晴海は、もうなにも言わない。夕花を抱きしめた。
夕花も手で誘導している。ベッドで最後のビーコンに到着するまで抱き合い、求めあった。
船室にあるシャワーでお互いの汗や体液を流して、礼服に着替える。
オーダーメイドだけあって身体にフィットしている。夕花の礼服は、スカートタイプとズボンタイプを用意した。墓参りには、スカートタイプで行ったが、今日はズボンタイプで行くようだ。夕花も晴海以外に肌を見せるのに抵抗を感じるようになっていたのだ。
着替えた二人は、船室を出て操舵室に移動した。
これからは夕花が操舵するためだ。晴海は、礼登に連絡して、係留場所まで誘導を行う。多数のクルーザーが並んでいる場所に”文月”と書かれた場所を発見した。夕花は、しっかりとした操舵で接岸した。クルーザーの固定は、場所を提供している者が担当する。油や水の補充。清掃などもサービスとして含まれている。
「そうだ。夕花。左手を貸して」
「え?はい?」
夕花は求められて、左手を晴海に差し出す。
晴海は、夕花の左手を握って、薬指にプラチナとゴールドでできた指輪を付けた。
「え?」
「結婚指輪だよ。していないとおかしいだろう?」
そういって、晴海は左手を夕花に見せる。
同じデザインの指輪が晴海の指にもはまっていた。
「晴海さん」
「うん。似合うよ」
「いつの間に・・・」
「それは、内緒だよ。でも、今日に間に合ってよかったよ」
種明かしをすれば簡単だ。
夕花が、従業員に補給物資の依頼をしている最中に、晴海は近づいてきた礼登から指輪がはいった小箱を受け取ったのだ。
プラチナとゴールドが絡み合うようなデザインになっている。裏側には、相手の目の色と同じ宝石が填められている。
「よろしいのですか?」
「当然だよ。夕花は、僕の奥さんだからね」
「ありがとうございます」
指輪を見て抱えるように頭を下げる。
「夕花が僕のものだと示す為に、もうひとつも受け取ってね。後ろを向いて」
「はい?」
夕花の首にネックレスを付ける。
指輪と同じ様に、プラチナとゴールドで作られている。ボリューム感があるネックレスだ。ロープ状にしたゴールドとプラチナを編み上げた物だ。等間隔に、晴海と夕花の目の色と同じ宝石も埋め込まれている。宝石がアクセントになって輝いている。
「え?」
「うん。似合う。似合う。礼服だから胸元が寂しいだろう?男性はネクタイをするけど、何か無いと寂しいからね。真珠はちょっと違うかなと思って、ネックレスにしたけど、思った以上に似合うな」
「晴海さん」
「ん?行こう。時間には余裕があるけど、何があるかわからないからね」
「・・・。わかりました」
離れていた、礼登が晴海と夕花に近づいてきた。
「文月晴海様。夕花様。ご利用ありがとうございます」
「クルーザーを頼む」
「はい。お戻りまでに補充を済ませておきます。今日が初回のご利用なので、契約書を船室にお届けしておきます。次回ご利用までに目を通して置いてください。また、何か疑問点がありましたら、ご連絡を頂けましたら対応いたします」
「わかった。ありがとう。送っておいた車は駐車スペースか?」
「はい。ご案内いたします」
従業員に案内するように礼登が指示を出す。
晴海と夕花は、素直に付いていった。
車は新しく礼登が用意した物だ。だから、晴海も夕花も知らない。
従業員に案内された先に有ったのは、1965年のモンテカルロラリーでの優勝を飾った車をベースにしたレプリカだ。市販車になっているので、ラリーオプションは取り外されている。
「これでお間違いないですか?」
「あぁ大丈夫だ。ありがとう」
晴海は、従業員にチップを渡す。礼登がニヤニヤしながら晴海を見ていたのが気になるが、指定されたのだから、目の前にある車に乗り込むしか無い。情報端末をかざせば鍵が空いた。間違いない。
「晴海さん?」
「夕花は、助手席に、今日は僕が運転する」
「わかりました」
車に乗り込んだ。
レプリカだけ有って内装は当時の物ではない。雰囲気を壊さない程度に近代化されている。ナビは備え付けられていないが、情報端末とのリンクは可能だ。晴海は、自分の情報端末と夕花の情報端末を車とリンクさせる。
晴海は、情報端末に流れてくる情報を見て目を疑った。
(こういう事か・・・。能見の指示だな?)
晴海は、礼登を見ると、礼登も視線に気がついたのだろう。ニヤニヤしながら近づいてくる。
「文月様。何か不都合でもありましたか?」
「いや、何でもない。ガソリンを満タンにしてくれたのだな。助かる」
「サービスの一環です」
「ありがとう。帰りも、このスペースに停めていいのか?」
「はい。大丈夫です。空いているスペースなら自由に停めてください。こちらのスペースは契約者様だけの駐車スペースです」
晴海は、身体を乗り出して、礼登に近づいて囁くように詰問する
「(おい!礼登。何をした?このエンジンは、おかしいだろう?レプリカの諸元だと、40PS程度だろ?)」
「(少し、改造させてもらいました。ご不満でしたか?)」
「(ふざけるな。どこの世界に、少しの改造でスポーツタイプ以上の500PSになる?フルタイム4WDで、4WSだと、それにモーターを4つも付けている。モンスターって言葉が生易しいぞ!)」
「(はい。晴海様が運転なさるのに相応しい車に仕上がっていると自負しております)」
「(礼登!)」
「(晴海様。愛おしい奥様が見ておられます。それに、約束の時間に遅れてしまいますよ)」
「店主。あとで連絡する」
「わかりました。ご連絡お待ちしております」
晴海と夕花は、駿河に上陸した。
そして、足を手に入れた。
入学する学校まで来るまで移動する。晴海は、渡された車を始動させる。パワーに比較して静かなエンジン音だ。アクセルを踏み込むと心地よい振動と音が車内に響く。晴海は、ゆっくりとした速度を維持しながらウィンカーを出して街道に合流した。
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