第七話 怠惰
欲望をぶつけ合った翌日は昼過ぎまで惰眠を貪っていた。
起き出した二人は、昨晩の状態で放置された布団を見て、笑いあった。それから、”おはよう”のキスをしてから、洗濯物をまとめた。体力を使い果たしたと言っても若い二人は起きる頃には体力”も”戻ってきていた。
洗濯物をまとめる作業をしているが、服を着たわけではない。風呂から上がってきたのと同じ全裸なのだ。
晴海は、夕花の形のいいおしりを見て自分が反応しているのに気がついた。
「晴海さん」
「どうした?夕花?」
晴海もそれだけで解った。
夕花は、晴海の反応した物を見つめていたのだ。
「おいで、夕花。それから、お風呂に入ってから、ご飯にしよう。ガウンが風呂場に有ったから、ガウンだけでいいよね」
「はい!」
ベッドに腰掛ける晴海の前に夕花が跪いた。晴海の準備が出来たら夕花が上に乗る。昨日はやらせてもらわなかったが、今日は夕花が自分で誘導できた。
「あっ・・・」
「夕花。動いて、解るだろう?」
「あっあっ・・・。はい。わかり・・・あっ・・・ます」
3時間に渡って、夕花は晴海を求めた。晴海も、夕花の求めに応えた。
「はぁはぁ。晴海さん」
「夕花。お風呂に行こう」
「はい」
二人は、全裸のまま地下に移動した。
露天風呂の清掃は終わっていた。湯船にもお湯が張られていた。波の力を利用した発電が行われている。他にも、太陽光や風力、使える物は何でも使って発電が行われている。地熱を使った発電も行われている。発電時に生まれた熱を使って、水を温めて風呂に使っているのだ。
お互いの身体を洗ってから、露天風呂に移動する。
昨晩と違って、太陽の光が降り注いでいる。
水平線を見ながら二人は湯船に浸かった。昨晩は暗くて気が付かなかったが、露天風呂の床の一部が透明になっていて下が見える状態になっている。レンズになっているので、下からは見えないが上からはよく見える状態なのだ。
「後で、桟橋にも行ってみよう。夕花が操縦する船もある・・・。あぁあれだね」
「え?」
晴海は、床から見えている船を指差す。
「能見が用意したから間違いない」
「わかりました。最新式だと、操作方法を勉強しないとわからないとは思いますが、基本操作は大丈夫です。駿河まで行けるようになればいいのですよね」
「そ。頼むね」
「はい!お任せください!」
海を走る船を見ながら、晴海と夕花はこれからのことを話した。夕花は、奴隷市場で処方された薬をしばらくは飲み続けるつもりで居ると晴海に告げた。晴海は、夕花の体調を気遣って辞めるように進言したが、夕花は試験に合格して学校に通うようになったら辞めると説明はした。
いきなり辞めると反動が発生する可能性があるためだ。試験に合格して学校に通うようになれば、薬を辞めても問題はないだろうと説明した。
実際に、夕花は薬を辞めるつもりはなかった。
最終的には妊娠して晴海の子供を産みたいという願望が芽生えているが、そのためには晴海の敵を始末する必要がある。そのときに、自分は生きていたいと思うのか未だ判断出来ない。ただ、経験したことで夕花は晴海との確かな繋がりを得たと思っている。この繋がりが幻想だったとしても、繋がりにしがみつくことで、何かが変わるかも知れないと思っているのだ。
二人は、露天風呂から脱衣所に戻った。
身体を拭いて髪の毛を乾かしてガウンを羽織る。
二人で食堂に移動した。
あの訳のわからないメニューから何を注文するのか迷ったが、能見が作ったメニューなら晴海が嫌いな物や、夕花が食べられない物は排除されているだろうと予測して、適当に注文することにした。
二人はお互いに目を瞑って押したメニューを食べることにした。
味も量も満足できる物だった。メニューの名前以外はまともだと判明した。
厨房は完全にオート化されていた。業者が補充する形にはなっているが、全部のメニューが半永久的に食べられる状態で保管されていた。第三次世界大戦後の食糧難のときに開発された技術だ。宇宙食を改良した物だ。
「食器の片付けは・・・。あぁあそこだな。夕花。僕が持っていくから、夕花は飲み物をおねがい。何か、冷たい物を頼むよ」
「はい。わかりました」
晴海が立ち上がって食器が乗ったトレーを持っていく、夕花は飲み物が出てくるスタンドに行った。
「・・・。晴海さん・・・」
「どうした?」
晴海は、夕花の呼びかけにトレーを置いてすぐに夕花の所に移動した。
そして目にしたのは・・・。
”晴海様と忠義の愛の飲み物”
”夕花奥様の聖水”
”忠義のいれた紅茶”
”晴海様からのご褒美”
もちろん能見が作ったメニューだ。
だが、残念なことに、メニューの名前を変えても、飲み物の注ぎ口までは変更出来なかったようで、色が付いている。
「夕花・・・の聖水?」
「・・・。晴海さん?あ!そうだ。晴海さん。勉強をするために、買った物の中に付箋があります。ペンもあります。このタイプのスタンドならボタンを押せば出てきますよね?少しだけ出してみて、飲めそうな物に、わかりやすい名前を書いて張りませんか?」
「そりゃぁいい。さっそく・・・。夕花。付箋とペンを頼む。僕は、飲み物を確認するよ」
「はい。あの・・・。晴海さん。なんで、最初が”夕花奥様の聖水”なのですか?」
「気になってね。悪趣味な能見だから、色とか・・・」
「・・・。いいですけど、私が戻ってくるまでに確認しておいてください」
「もちろんだよ」
(昨日、お風呂で・・・。と、いうことは、話さなくてもいいよね)
夕花の昨晩の失態は、晴海も気がついていたがあえて話していない。手を添えていたのだ。手に温かいぬくもりを感じたのだ、それが何かすぐに解った。夕花の呟きも聞こえていたがあえて反応しなかった。晴海の優しさではなく、夕花に話をするタイミングを失っているだけなのだ。
夕花が戻ってくるまでに、12種類の飲み物を調べて、わかりやすい名前を情報端末に書き込んだ。
夕花が戻ってきて、付箋を張っていった。
二人は、生活の場所を改善していった。
洗濯も全てではないが自動で行えるので、手洗いが必要な物以外は自動洗濯を使った。
晴海と夕花は、山の峠ではないが、誰も訪れない
夕花の母親に関する調査は遅々として進まない状況だ。ある程度までは調査出来るのだが、どこから攻めても壁が存在してしまう状況だ。能見と礼登からの報告書にも進展がない日々が続いている。代わりに、六条家を襲った事件の犯人と目される連中は判明した。実行した者たちはすでに捕らえて、搬送を開始している。最終的には、元軍の施設で尋問することが決定している。しかし、命令を出した者や裏で”絵”を描いた者まではたどり着けていない。
二人は、ガウンだけの生活を続けた。
しかし、身体を重ねるのは夜だけと決めた。そうしないと、一日中お互いを求めてしまいそうになるからだ。7階の食料がなくなりかけたときに、夕花の船舶1級の試験が行われる知らせがはいった。急な欠員が出来て、能見がねじり込んだようだ。
「・・・」
「晴海さん。何かありましたか?」
「いや、久しぶりに下着を履いた・・・。と・・・。ね。夕花。どうした?」
夕花が何か不自然に身体をくねらせているのが気になってしまった。
「そうですね。ブラのサイズが合わなくなってしまって・・・」
「ん?胸が大きくなった?」
「・・・」
夕花が黙ったので、晴海は、それ以上は突っ込まなかった。夕花は、奴隷市場に居るときには食事はしっかりと食べていた、飲み物も飲んでいた。死ぬために生き延びることを考えていたのだ。狭い部屋の中では運動は出来ない。監視カメラがあるので、おかしな行動も出来ない。ストレスから太ってしまっていたのだ。
ストレスから解放され、食事の回数は同じだが栄養のバランスは大きく違う。そして、夜には晴海と気を失うまで求め合う。夕花は、屋敷に来てから元の体重に戻っただけではなく普段は使わない筋肉を使った運動で、身体が引き締まったのだ。
「試験は、15時には終わるのだろう?帰りにショッピングモールに寄ろう。僕も欲しい物があるからね」
「あっ。ありがとうございます」
こうして臨んだ試験だったが、夕花は楽々合格した。
晴海は、約束通りショッピングモールに寄った。夕花は、下着を購入した。晴海は、礼服を自分の物と夕花の物を注文した。
入学まで2ヶ月とせまってきている。夕花が、合格したことで移動手段を手に入れた。
それなら礼服を用意して置かなければならないと思ったのだ。二人分をオーダーメイドで注文した。
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