第41話 ウザさが災害レベル

「お、マロナ」

 しかしもはや無敵状態のキリタは軽蔑された程度では止まらない。むしろ快感だ。

「ようこそ平和の園へ! カモンッ!」

「キョーダイ誰だその美女は。紹介してくれ!」

「やだなキョーダイ、僕というものがありながら」

「俺は女が好きだ」

「いきなり冷静に!?」

 男に突っ込みを入れた瞬間、キリタはマロナに思い切り往復で頬を引っぱたかれる。

「うべっ!? なにすんだよ!」

「目を覚ませ」

「覚めてるさこの上なく! 今ナラナンデモ出来ソナ気ガスルヨ」

「ヤバいなこいつ、ウザさが災害レベルだ……」

「なあおねーさん、酒は嫌いかい?」

 男が透明の酒が入った瓶を持って、マロナの肩を抱く。

「酒は好きだけど、いきなり身体に触れてくるような男は大嫌い」

 冗談めいて返すが、目は笑っていない。

「……ぉお」男はあっさり手を離し、降参するように両手を挙げて笑う。「すまなかった。はっきりした女は好きだ。謝るから、杯を受けちゃくれねえか」

「あのね……態度を改めたのはいいけど……あたしは仲間と待ち合わせしてるの。でも店中馬鹿騒ぎしてるから違うところにしようと思ったら、何故か宿で倒れてるはずのこいつがその中にいるからつい……ああ、声掛けないで放っておけば良かった」

 心底後悔しつつ俯いて頭を押さえる。が、すぐ真顔で顔を上げた。

「あ、そうしよ。あたし、話しかけてません。ではそういうことで」

「ちょ、ちょっ」男もマロナの切り替えの速さに戸惑う。

「それはないだろマロナ! 僕を置いてくのか!?」

「え? すいません、どなたですか? 先を急ぐので」

 本気で別人を見るように首をかしげ、マロナが背を向ける。

 そのとき、店のドアをアシュラドがくぐってきた。

「お、マロナ。キリタタルタの奴、宿からいなくなってたぞ。どこ行ったんだか……」

 言葉の途中で本人がいることに気付く。

「あ、いた」

「ああ……ややこしくなりそう」マロナが状況を悲観する。

 次の瞬間、アシュラドの身体が吹き飛んだ。

「えっ、なに!?」

 起きたことが把握できずにマロナが身構える。

 殴られる寸前後方に飛んで衝撃を緩和したアシュラドは、受け身を取りながら倒れ込む。

 店内の馬鹿騒ぎが一瞬にして止まり、視線が集中する。

「く……やべぇ。こんなとこでかち合っちまうとは」

 アシュラドの鼻と口から血が流れる。目には驚きではなく、理解の色が浮かんでいる。

 この場で状況を正確に把握していたのは、ふたりだけ。

 ひとりは突然殴られたアシュラド。

 もうひとりは殴った側……キリタと意気投合していた男だ。

「牙鬼が……! 『人間』の街に立ち入るんじゃねえよ」

 陽気に飲んでいたときとは別人のように、憎悪の双眸でアシュラドを睨み付けていた。

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