12月9日(月) 三者面談②・蔵敷家
「――これが、先週行われた定期考査の結果です」
二年生に進級して、そのうちの三分の二年が経過して、二度目の三者面談がやってきた。
……やけに二や三が多いな。
などと、益体のないことを考えつつ差し出された成績表を親と二人で覗き込んでみれば、そこには意外と悪くない数字が羅列されている。
「ご覧の通りではありますが、前回に比べて成績が上がっています。このまま維持、または更に上げていくことが出来れば前回に挙げられていた志望校は問題なく合格すると思います」
この結果には先生も満足しているようで、いつものような裏は感じさせない柔らかな笑みでそう言ってくれた。
「――けど、先生? その割には順位が前回と比べても上がっていないと思うのですが……」
だがしかし、親というものは存外に鋭い。
きっちりと細部まで情報を読み取り、先生の発言との矛盾点を暴き出す。
「それは……ですね。えー……他の生徒も同様に点数が良かったからかと、存じ上げます」
思わぬ指摘に、しどろもどろになりながら説明をする担任教師。
けれど、その発言では語弊を生んでしまうと感じたのか、慌てて弁解をする。
「とは言いましたが、今回のテストが特別簡単だったわけではありません。私たち教員も驚いているのですが、何故か今回のテスト期間においては生徒たちの勉強意欲が高く、そのために成績が飛躍したのだと思います」
「はあ…………」
対する母さんは半信半疑な様子であった。
が、その話を聞いた俺は静かに驚いていた。
……どう考えても、昨日の話に挙がった翔真のことが原因なのだから。
「それに、この件に関しましては息子さん――蔵敷くんも関係していらっしゃいますよ」
「……………………は?」
「あの、それは一体……?」
ともすれば、三枝先生の予期せぬ発言に俺と母さんは困惑を示す。
何せ、思い当たる節が全くないのだ。
「先程、生徒が勉学に意欲的になった――と申し上げましたが、そうなれば当然、分からない問題に対して質問をする子が増えてきます。けれど、教師の数は有限。殺到する生徒全員に対応することは難しいです。そこで、勉学の得意な友人・知人に解説を求める生徒が増え、その結果、蔵敷くんを始めとした成績優秀者の方々が解説役に回ってくれましたから」
「へぇー……この子がそんなことを……」
説明が終われば、よく分からないが取り敢えず気持ち悪く感じるほどにムズムズとする生暖かい目を母さんから向けられた。
「いや、違…………」
思わず癖で否定から話を始めるも、内容自体は何も間違っていないことに気付き、途中で言葉に詰まる。
「何が『違う』よ……」
「そうですよ、照れることはありません。良いことをした、と誇ってください」
大人二人からの柔らかい笑み。
それが気に入らず、しかし対抗する手段もなく、プイと顔を背けることしかできない。
「――とまぁ、そんなこともあり……前回と同じように学校生活に問題はないかと。お母様から何か質問などは……?」
それが合図となったのか、先生の態度は普段の人を弄るソレから教師然とした硬い対応に戻る。
「いえ、特には」
「そうですか。それでは最後に、確認なのですが……前回の三者面談で仰られていた希望進路は変わりなく――ということで大丈夫ですか?」
再び、二つの視線が俺へと向いた。
それに対して、肩を竦めた俺は軽く息を吐いて答える。
「えぇ、まぁ……。詳しくは決めてませんけど、自分の学力にあった工業大学で情報系の分野を学びたいです」
「…………そうですか。ありがとうございます。これにて、面談は終了です。お気を付けて、お帰りになられて下さい」
あっさりと、そんな問答を済ませば解放される面談。
立礼を示す先生に対し、会釈で返した俺は母さんとともに廊下へ出た。
「……それじゃ、部活だから」
「はい、いってらっしゃい」
そんな一言を交わし、一人先を急ぐ。
校舎から外へと飛び出せば、一陣の風が吹き荒び、冷たく乾いた空気を運んでくる。
沈む太陽、橙色めいた光の残滓。
それらが色付くこの景色に、思わずブレザーの襟を掻き合せたくなった。
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