12月5日(木) 中間考査・四日目
「起立、気をつけ、礼」
『ありがとうございました!』
「はい、それでは今日もお疲れ様でした」
学級委員である翔真の号令を合図に、クラスの全員が一斉に立ち上がって頭を下げれば、先生はポンと音もなく手を叩き、ほんわかとした笑顔で帰りの
今日で中間考査は終了だ。
その開放感からか、鞄を持って教室を出る者、友達の席へと向かう者――皆一様に顔は明るく、いつも以上にざわついている気がする。
「そら、俺たちも部活に行こうか」
「そうだな」
そう声を掛けられ、俺たちは教室を出た。
いつもなら、試験後は何かしらのちょっとした打ち上げを行うのだが、今回は試験終了日からいきなり部活動が始まるためそれはお預け。
ちなみに、菊池さんは『マネージャーたるもの、選手よりも先に部室へ向かい、少しでも早くサポートをすべし』などという謎精神を胸に、かなたを連れて一足先に部室棟へと走って行ったためここにはいない。
その際、我が幼馴染が嫌々な表情を浮かべていたのは言うまでもないだろう。
階段を降り、渡り廊下を歩いて教育棟へと進み、そうして部室棟へと繋がる道に出れば、一年生から三年生までの総勢およそ二千名の生徒が三々五々に下校していた。
この学校は門から校舎までに高低差があり、階段が通じているという珍しい造りなのだけど、その階段いっぱいに人が満ち、談笑しながら帰る様というのは、それなりに見物である。
……まぁ、このうちの三・四割は俺らと同じように部活がある連中なのだろうけど。
その大群の一部と化し、流れに身を任せて目的地へと歩いて行くと、部室にはすでに数人のメンバーがやって来ており、着替えを始めていた。
「――おっ、翔真おかえりー」
「部長……お勤めご苦労様です……!」
「あっ、翔真先輩が来てる!」
同級生から後輩まで、不登校の二週間から試験休みの一週間に値する計三週間の不在を責めることなく、むしろ待っていたとばかりにやんややんやと騒ぎ立てる。
いつも通りに出迎える者、ちょっとしたからかいを含める者、純粋に喜ぶ者まで千差万別だ。
けれども総じて、マイナスな雰囲気はない。
そのまま『多対一の喧嘩を制した武勇伝』として、次々と着替えにやってくる部員からの質問攻めを乗り切って練習を始められるかと思いきや、当然のようにマネージャー陣からは熱いエールを頂く。
ついでに言えばギャラリーも多く、テストが終わったばかりなんだから好きなことをしてリフレッシュしろよ……と思わなくもないけれど、この鑑賞自体が彼女らのリフレッシュだと言い切られてしまっては、もうどうすることも出来なかった。
そして、この彼の帰還を待ち望んでいたのは生徒ばかりではない。
試験明けで色々と忙しいだろうに、わざわざ監督までもが練習開始早々に顔を出し、「およそ一ヶ月のブランクを舐めるな!」と愛のあるスパルタ指導で翔真を徹底的に鍛え上げに来た。
けどまぁ、これに関しては同情しない。してやらない。
何故なら、アイツが居なかった二週間もの間、県大会で負けてしまったレギュラー陣の強化と称して、これに負けないレベルの練習を行わされていたのだから。
それを考えると、そんな苦行をこなしてなお、彼の説得に従事さた俺は最大の功労者なのかもしれないな。
だがしかし、翔真の瞳に曇りはない。
充実しているからか、その元から素敵なご尊顔故か、どこまでも真っ直ぐに輝いていた。
――まさに学園の貴公子、ここにあり。
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