11月12日(火) 欠けた学園生活②
一日明けた火曜日。
今日になっても翔真は学校に来なかった。
朝の
――というわけでもない。
一般生から見れば、金曜日、月曜日、そして今日と翔真は三日連続で休みを取っており、部員からしてみても唯一姿を見せた土曜日の大会で彼の調子の悪さを知っているために、至る所で心配の声が上がっていた。
それはもちろん、恋する少女こと菊池さんにも同じことが言えるようで、休み時間である現在、彼女は翔真のお見舞いに行こうかとあれこれ画策していた。
「やっぱり、様子を見に行った方がいいんじゃないかな……?」
不安げな様子を隠しきれず、そんなことを提案する菊池さん。
「いやぁー、それはどうだろうか……」
一方の俺は、言葉を濁して否定の声を上げてみる。
「もし風邪とかだったら、アイツは人に
……などと、それっぽいことを言ってみたりするが、本心はそこにはない。
なぜ、止めるのか。
理由は偏に、翔真の休んでいる原因が体調不良ではないと睨んでいるからだ。
きっかけは偶然だった。
大会当日の観客席にいたとき、何気なく翔真の見ている方向を俺も向いてみると、その先にはやかましそうな男女の学生グループがいた。
そして、中には先週から現れた二人組の他校生の姿もあったのだ。
国立から、翔真に絡む謎の集団グループがいたと情報を受けたが、おそらくはそいつらのことを指しているのだろう。
だとすれば大体の辻褄が合うし、だからこそ今はまだ様子を見るべきだと俺は思う。
原因は精神的なものなのだから。
「そ、それはないと思うよ」
「……何で?」
「た、大会の日にね……無理して来たんじゃないかって、監督と二人で翔真くんに話を聞いたの。だけど、休んだ理由は風邪などの病気じゃないって言ってたし、念のため体温を測ってみたんだけど平熱だったから、その可能性は低いかな……って」
けれども、それを知らない菊池さんは冷静に、論理立てて俺の行くべきでない理由付けを反証してみせた。
「……じゃあ、アレだ。部屋の片付けも碌にできていないのに、急に来られても困るだろ」
「翔真くんは、その辺りもしっかりしてそうだけど……」
「いやいや、アイツも男だぞ? いたいけな男子高校生だぞ? 人に見られて嫌なものの、一つや二つあるに決まってるだろ。察してやれよ」
我が儘を言う子供を窘めるように、そう暗にほのめかしてあげると今度は先ほどの様子とは打って変わって、顔を真っ赤に燃え上がらせる。
「しょ、翔真くんはそういうの持ってないもん……!」
はっはっは、それは幻想を抱きすぎというもの。
……まぁ、そういうブツはそもそも親にバレたらアウトなため、一も二もなく真っ先に隠してるんだけどな。
「……それを言うなら、蔵敷くんはどうなの?」
「…………ん? 何が?」
妙な矛先の変化に、俺は首を傾げた。
「かなちゃんがよく遊びに行ってるみたいだけど……そ、そういうのを片付けるために毎回困ってるの?」
「あぁ、それは――」
などと答えようとすれば、その前に横やりが入ってくる。
「……ん、そらはそもそも隠してない。パソコンの左にあるラックの、一番下の引き戸に――」
「――それはもちろん、誰が来てもいいようにいつでも部屋を綺麗にしてるに決まってるよな! 常識と嗜みってやつだ!」
そんな声をかき消すように、テンションを振り切らせて力の限り宣言してみせた。
「……へ、へぇー…………そうなんだ」
この冷たい瞳……。
どうやら俺の悪足搔きは無駄に終わってしまったらしい。
「……でも、常識と嗜みなら翔真くんもきっと問題ないよね」
そして、俺の馬鹿。
自分で自分の論理を破綻させてどうする。
はぁ……仕方ない、最終手段を使うか。
「ていうか、そもそも先に翔真に断りを入れたら?」
「あっ……それもそうだね」
たった一言。
それだけで納得した菊池さんは、鞄からスマホを取り出すとメッセージアプリを開く。
『今日、皆でお見舞いに行こうと思っているんだけど……具合はどうですか?』
『大丈夫、ありがとう。お見舞いは必要ないから、来なくていい』
そんな、予想していた返信が来たのは送ってから二十分後――お昼休みが終わろうとする頃合いだった。
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