11月4日(月) 放送日

 今日は文化の日の振替休日。

 故に学校も部活も休みということで、のんびりと過ごしていた。


 そんな夕方の出来事である。


「……もうすぐだな」


「わくわく」


 いつも通りに幼馴染のかなたはウチに入り浸っているわけだが、この日は二人一緒にソファに腰かけてテレビ前で待機をしていた。


 理由は明白だ。

 一週間と数日前に学校で行われた、テレビ収録。


 その放送が今日の今から始まるためである。

 体育祭の時とはわけが違い、単なるワンコーナーではなく、しっかりと組まれた特集。


 十数分にも及ぶ親友の雄姿ともなれば、見ないわけにはいかない。


 そうして数分。

 コマーシャルが明ければ、ようやく番組は始まった。


 軽快な音楽とともに、表示される番組タイトル。

 そこから中身の趣旨の説明が行われれば、早速とばかりに収録された内容が流れる。


 映る校舎。行き交う生徒たち。

 それらを背景に翔真が登場すれば、簡単な自己紹介とともに与えられた役割を果たしていく。


「はぇー……やっぱり映像でも映えるな、翔真は」


「ん……同意」


 通常、写真写りは良くても、動画になると残念に見えてしまう人は多い。

 しかし、目の前の彼はどうだろうか。映る表情・仕草に少しの衰えも感じさせない。


 ……まぁ、普段の生活から「イケメン、イケメン」って騒がれているわけだから、カメラを通したところで変わらないのは当たり前のことかもしれないけど。


 場面は移り、今度は授業風景へ。

 この時ばかりは翔真が説明をすることも難しく、プロのナレーションが説明を代わってくれていた。


 とはいえ、何だろう。

 収録現場を見て、しかも実際に受けた授業の繰り返しだというのに、テレビから眺めると何かが違う。


 カットや繋ぎ、テロップによって、俺の体験した一日とは丸っきり別の世界がそこにはあった。


 翔真が映れば、その前の席に座っている俺ももちろん映るわけだけども、自分が自分ではないみたい。

 まるで夢でも見ているかのようだ。


「……にしても、さっきのそら以外、私たちの誰も映らないね」


 そんな折、かなたがポツリと呟く。


「そりゃ、俺がカメラの位置を気にしながら動いていたからな。俺と一緒に行動していたお前や菊池さんも、当然映らないだろうさ」


 流れる昼休みの様子、各教室の紹介に部活動の風景など、多様に場面は変わるものの、その影はどこにも見当たらない。


「けど、何だよ。出たかったのか?」


「いいや……別に」


 気になって逆に聞いてみれば、フルフルと首を横に振られる。

 それと同時に、胸に抱きかかえられていたクッションが少し潰れて、プリントが僅かに歪んだ。


 てか、まーたコイツは人の部屋から勝手に物を持ち出しやがったな……。


「……それ、ちゃんと戻しとけよ」


「あーい」


 景気よく返事をする幼馴染をよそに、俺は再びテレビへと戻った。



 ♦ ♦ ♦



『――それではまた来週も、お楽しみに~!』


 それからしばらく。

 放送を全て見終えた俺たちは、ソファの背もたれに身体を預けた。


 どうやらいつの間にか、前のめりにテレビを見ていたらしい。


「いやぁ……二度目とはいえ、知り合いや知った場所がテレビに出るのは感慨深いものがあるな」


 息を吐き、天井を仰ぎ見れば、隣からも同意の声が上がる。


「ん……けど、明日は凄いことになりそう……」


「それなー……」


 俺もまた同意する。

 予想ではあるが、きっと過去と同じように他校の生徒が殺到することだろう。


 そう考えれば、ため息が零れるのも仕方ない。


「……面倒ごとが起きなきゃいいんだけどな」


 祈るように呟かれる言葉。

 だがしかし、その願いが叶うことはなかった。

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