9月22日(日) たった一つの安心できる場所
何もしたくないときってあると思う。
疲労、無気力、面倒、倦怠、惰気、億劫、不精、懶惰、怠慢、物臭。
心がポッキリと折れて、宿題もゲームも読書も、果てには生きることさえも行いたくない――そんな日があると思う。
…………ないか? ないな、うん。
でも、俺はある。
普段から気を張り詰め、思考をやめず、常に意識を外に向けていると、反動のように時折こうして挫けてしまうのだ。
というわけで、昼前に起きた俺は未だに布団から出ることもなく、枕元のスマホさえ触らずに独りで丸くなっていた。
眠気はないのに瞼が重い。全身も鉛のようだ。
何かに縋りたく、ぬくもりを感じたく、身を震わせて自分の身体を抱きしめる。
寒い。寒かった。
物理的にではなく、心が。
ポッカリと穴でも開いたような空虚感に支配され、虚しさだけが巣食っている。
曇りのせいで窓から日光が入ることもない。空気もどんよりとしていた。
そういえば、台風が近づいてるって話だったっけ……。
今の気分にはピッタリの天候で笑えてくる。
電気も付けていないため、夜中のように暗くてむしろ落ち着く。このまま無になりたい。
そんな特に理由もない絶望に打ちひしがれていると、突然のようにドアは開き、廊下の電灯が後光のように差し込んだ。
「おそよー。……起きてる?」
いつものように、何の気兼ねもなく姿を現したのはかなた。
インターホンの音は聞こえなかったが……どうやって入ったのだろうか。
以前に話していた合鍵か、もしくは単に俺が聞き逃していただけか……。
どちらにしても、あまり違いはない。ウチの親に容認された合法行為である。
「あれ、珍しい……。パソコンも付いてないし、いつも使ってる抱き枕もほっぽってる」
部屋の惨状に気付いたのだろう。
ドア横に設置されたスイッチを押し電気をつけた彼女は、部屋を真っ直ぐに進み、俺の寝ているベッドに腰掛けた。
「……どした?」
小さな手が、伸びた前髪を梳いてくれる。
「…………悪い、なんか心が折れた」
普段は弱音を吐かないだけに、少し気恥ずかしくなり、壁側に顔をプイと背けた。
そのせいで触れられていた手が離れてしまう――なんて、考えてしまうくらいには自分の精神が弱っていることを自覚する。
ギシリとベッドフレームが軋んだ。
背中には、大きくて温もりのある気配が一つ。
気になって向きを変えると、そこには俺の寝返りで空いた空間にすっぽりとかなたが一緒に寝転んでいた。
セミダブルで良かった。おかげで、ギリギリ狭さを感じない――などと余計な思考が横入りする。
「……ん、いいよ」
珍しくも、穏やかに向けられる笑み。
半年から年に一回、あるかないかの俺のこの状態に焦ることもなく、両手を広げて受け入れの体勢をとってくれる。
だから、素直に甘えてしまった。
「……よしよし」
少し身体を預ければ、ギュッと抱き寄せられる。
俺も自然とその背中に腕を回した。顔をうずめる。
温かくて、柔らかくて、とても心地いい。
自然と瞼が落ちると、耳元で優しく語りかけてくれる。
「……大丈夫。ここには、私しかいないから……。だから、気を張らなくてもいい」
何度も。何度も。
頭を撫で、囁いて、心臓の鼓動を聞かせてくれて――。
トクン、トクンと脈打つたびに、妙だけども不思議と悪くない感覚に包まれて――。
久しぶりに感じる幼馴染は、涼やかな草原に佇む温もりに溢れた陽だまりのようだった。
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