6月14日(金) 畔上翔真の葛藤
変わらない日常。いつも通りの現実。
登校し、友とワイワイ語り合い、授業を受け、お昼を食べ、睡魔と戦いながら午後を過ごし、そして放課後は各々のやりたいことを行う。
今、流れているのはそんな健全で、ありふれた、どこにでもある学園生活。
――などではない。
先日の文化祭で起きた事件はクラスに波紋を呼び、一部始終を目撃していた生徒が噂を広めたことで、俺たちはそらと倉敷さんから距離を置くようになっていた。
もちろん、これは彼らを知っている者だけの行為であり、学園中に広まっているわけではなく、特別酷い制裁を加えているという事実もない。
ただ、彼らの仲を知っているだけに明かされた真実を受け止められず、様子見をしているというだけ。
俺もそんな人間の一人であり、けれど他の人よりも今までの距離が近かっただけに、行動を決めかねていた。
朝、登校してくる彼らの様子は、相も変わらず一緒である。
低血圧らしい倉敷さんを、そらが手を握って連れる――そんな普段と同じ光景。
休み時間であってもそれは変わらず、状況が状況だけに頻度もその内容もいつもに比べれば抑えめではあるけれど、殆ど変化のないありのままの二人だった。
「…………それじゃ翔真、俺は今日も学食に行くわ」
「…………あ、あぁ……分かった」
それでも、ぎこちなさは生まれる。
彼ら同士は変わりなくとも、彼らと俺らでは変わってくる。
お昼休みになり、徐々に日常となりつつあるそんな非日常的な行動を容認すれば、倉敷さんも声を上げた。
「…………そういうことだから。詩音、後でね」
「…………う、うん。……いってらっしゃい」
向こうも同じ。
そして、そんな毎日にクラスメイトはモヤモヤしている。
なるべく壊れないよう、壊さないよう、皆腫れ物を扱うかのように空気を形成し、遠巻きにしつつも普段に似た接し方をなるべくしていた。
もちろん、それが分かっていない彼らではないのだろうから、合わせて『いつも』を見せてくれるのだろうけど、それが温度差を生み、無神経な振る舞いに感じ、不満が募る。
かくいう俺もそうだ。
彼らのことが分からなくなってきた。
何も説明せず、弁解もせず。
加害者と被害者の関係だと認めたうえで、あの様子を見せつけられる。
和解か何かが過去にあったのは理解できるけれど、共感できず、信用もできず、納得できないその歪な関係が気持ち悪い。
何をもって、彼は彼女に振る舞っているのか。
何をもって、彼女は彼を受け入れているのか。
食べているお弁当は、あの時に比べてとても冷たかった。
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