5月22日(水) 定期考査一日目

 定期考査一日目。

 本日の予定は一時限目から選択教科、自習、コミュニケーション英語と三本仕立てであり、午前授業だ。


 そのために、朝のSHRショートホームルームを終えた現在は、私も含めたクラスの半数が筆記用具を片手に別教室へと移動していく。

 逆に、移動しない者の中で知った名前を挙げるとするなら、そら・詩音・畔上くんであるのだけど……。


 さて、ではこの『選択教科』とは何なのだろうか。

 それは、ここ特Ⅰ類ならではの科目であり、中学校の教育課程に存在するようなものとは全く関係のない代物。


 説明をしよう。


 復習にはなるが、特Ⅰ類とはそもそもが、この学校の中でも特に学力に優れた者を集めた学科である。

 したがって、本来二年生で分けられるべき文理選択がこの学科内だけでは唯一行われず、代わりに必要な教科を選択教科として選ぶことになるのだ。


 その中身は全部で四教科――日本史、世界史、物理、生物。

 化学と地理はそれぞれ強制的に受けさせられ、文系ならば前二つのうちどちらかを、理系ならば後ろ二つのうちどちらかを履修する必要がある。


 文理選択のために選ばなければならない教科、故に『選択教科』なのだ。


 そんな私たちが移動した先は、ウチのクラスと同じ階層に位置するちょっと手狭な空き教室。

 普段の世界史で使用される場所でもあり、私にはとても馴染み深かった。


 唯一違う点を挙げるとするなら、普段よりも人数が多いという点だろうか。


 それもそのはず。ここに集められたのは、世界史選択の者だけではないのだから。

 試験監督の人数――という世知辛くも切実な理由のために、日本史選択の生徒も集まる故の妙な違和感と空気の密度を感じてしまう。


 でもきっと、そらたちもそうなのだ。

 詩音と畔上くんは移動しなかった。二人とも生物選択者で、唯一物理を選択したそらとは違うはずなのに。


 しばらくして入室してきた先生は、小脇に少し厚みのある茶封筒を抱えている。

 前から後ろに、いつも通りの動作で配布された問題用紙を送れば、その表紙には『日本史・世界史』と表記されていた。


 二教科を同じく空間で受けさせるのだし、問題も一緒にしてしまおう。

 ……といった魂胆に違いない。まぁ、これもまたいつものことであるのだし、どうでもいいのだけど。


 ひと先ずは、この与えられた問題を解くのだ。

 赤点なんて目も当てられない。留年なんてもってのほか。


 だって――私たちの学区の中でたった一つ、文理を問うことなく三年間同じクラスで生活を送ることができる場所なのだから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る