4月21日(日) リサーチ・リザルト

「買い物に行こう」


 日曜日の朝。

 不意に起こされたと思えば、唐突にそんなことを告げられる。


「……なんで? つーかこの前、菊池さんと行ってたじゃん」


 止まらない眠気を欠伸で誤魔化し、椅子に座りクルクルと回転して遊んでいる幼馴染に向け、俺は返答した。


「アレは見るのが目的。全ては今日、そらと買い物に行くために」


「…………意味が分からん」


 だけども、一度起こされた以上は俺に眠るという選択肢はない。

 特に予定もやりたいこともないし、仕方ないけど付き合ってやるか。



 ♦ ♦ ♦



 というわけでやって来たのは博多駅。

 俺としては一ヶ月、隣の連れとしては三日ぶりの来訪である。


「んで? この短い期間に二度も、それも連れる相手を変えて来た理由は何さ?」


 引っ張られる俺と、その袖を掴みズンズン先へと進んでいくかなた――という普段とは真逆な状況の中でそう尋ねた。


「明明後日、二十四日」


「二十四日……? …………普通の平日じゃね?」


 端的に答えを教えてもらうも、全くその意味を汲み取れない。

 一体その日に何があるというのか。


「忘れたん? ……詩音の誕生日」


「あぁー、そっかそっか。菊池さんの誕生日な……――って、知らんわそんなもん」


 さも俺が悪いみたいな口振りで追求されたが、そもそも俺と菊池さんは誕生日を把握し合うほどそこまで仲が良くないっての……。


 それに、俺に落ち度のない理由ならもう一つある。


「去年祝ったんならまだしも、そうじゃないだろ? なら、俺が知らなくても仕方ねーよ」


 去年といえば、まだ入学したてのホヤホヤ新入生。

 人間関係もそれほど形成されてない段階で誕生日は祝わないだろう。


「…………薄情者。詩音はそらの誕生日、知ってるもん」


「それはお前が菊池さんに教えたからだろ。なら、今回は早々に俺に教えなかったそっちの落ち度だ」


 そんな舌戦を交えつつ、気が付けばとあるお店に来ていた。


「――それで? 誕プレには何を買うんだ?」


 そこまで話してもらえれば、ここ最近の一連の行動の意味は全て分かる。


 恐らく、木曜の買い物で菊池さんの欲しそうなものを見つけ、今日買いに来たのだろう。


 そして、そのお店がココ――と。

 そう考えての質問だった。


「うん、これがいいんじゃないかな……って」


 そう答えたかなたが手に取ったものは、ヘアゴム…………だろうか?

 多分そうだ。隣に並んでいる商品のタグにそう書いてあるし、同じものと見て間違いない。


「ほぉー、いいんじゃないか? 可愛いと思うぞ」


「だろー? 詩音とも可愛いって意見が一致したんだ」


 そう語るかなたは、自慢げに胸を張る。


「おう、なんかブレスレットにもなりそうだしな」


 だが、その一言が行けなかったのだろう。

 単なる思いつきであった感想を述べれば、何故か白い目で見られてしまった。


「えっ…………何?」


「……別にー。私の幼馴染が妙に女子力高いから、複雑なだけ」


「…………何だそれ」


 ということは、俺の発言は的を射ていたわけか。


「で、そらはプレゼントどうするの?」


「それなー、マジでどうしようか……」


 話は変わり、今度は俺の番。

 かと言っても、菊池さんの好みなんてとある一人を除いて知らないし、何を送ればいいのか分からない。


 ケーキを作る、とかなら楽だし得意分野なんだけどなぁ……。


「そら、お願いだから誕生日ケーキを作るとかは止めてね?」


「…………なぜ分かったし。貴様、エスパーか?」


 図星をつかれて思わず焦る。

 そんな俺の様子を見て、かなたはため息をついた。


「はぁ……そら、普通にキモイ」


 おっと、いつからここは人を詰る場所になったんだ?


「普通に考えてさ、友達とはいえ異性から――それも男子からケーキを作ってもらうってどうよ?」


「あぁー、そりゃまぁ……ちょっと引くかも」


 なるほど、納得。

 ついでに金も浮くいいアイデアだと思ったが、ボツになりそうだ。


「でも、ならどんなのがいいんだ? お前ならともかく、女の子へのプレゼントの解答が分からん」


 手を挙げて降参のポーズ。

 ともすれば、脇腹を激しくつつかれた。


「おい、私は女じゃないってか?」


「えぇ……そこにツッコむ?」


 正直、俺らの関係は男女とかそんなものでは語れないようなものだと思っていたのだが、この幼馴染はそれを理解してくれていないらしい。


「いや、かなたはもう女とか関係なく幼馴染ってのがしっくりくるからなー。もしくは家族とか、そこら辺」


 その言い分をちゃんと伝えてやれば、黙り込み顎に手を当て考え込む。


「……………………確かに」


「だろ?」


 理解してもらえたようで、何よりだ。

 それよりも、肝心の話題が済んでいない。


「それで、何をあげたらいいのよ? こんな感じのもの?」


 話を戻すと同時に、『女子高生誕生日プレゼント』と検索をかけたスマホの画面を見せる。


 そこにはストラップや文房具、スイーツにヘアアクセサリー、コスメといった女子ウケの良さそうな文字が並んでいた。


「……まぁ、妥当。私もヘアゴム買ったわけだし」


 ほほぉ、ということは割と信用出来るわけだな?


 しかし、ストラップなんかの身につける系はなんか重い気がする。コスメなんて論外。


 スイーツも祝い日が平日な以上、持って行きづらいな。

 ……って、そうじゃん。ケーキ作っても運搬が面倒なことを忘れてたわ。


「と、なると……文房具あたりがベストアンサー」


「おぉ、良いんでない?」


 お墨付きも貰ったし、早速行こうか。

 老若男女入り乱れ、喧騒に包まれた人混みの中を俺たちは今日も並んで歩く。

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