第11話 ドミナント戦略、開店セール
翌日から<8-12>本部の一夜城店舗の開店セールがはじまった。
コンビニの開店セールとは思えない、八割引という破格の値引き戦略に村上家のコンビ二は苦境に陥っていた。
本部直営一夜城には、朝からお客が殺到して、逆に村上家のコンビニは
「テンチョウ、キョウハ、オキャクサンイナイネ ヒマダネ」
責任を感じているのだろう。
「
店長の春樹はリーダーにあるまじき弱音を吐いた。
「何を言ってるの! お父さん、あなたがしっかりしないと、このコンビニは潰れちゃうのよ」
副店長の妙子は叱咤するが、春樹の背中に力はない。
「お父さん、見損なったわ。こうなったら絆ひとりでも徹底抗戦よ!」
絆はコンビニの前にテントを張りはじめた。
ヘルプにハネケと風守結菜ついて店頭販売をはじめた。
声を枯らして、叫び続けて声がガラガラになっていく。
そして、夕方、絆は泣きながらコンビニの休憩室に帰ってきた。
ハネケも風守結菜も疲れを隠せない。
春樹は最早、戦意を喪失したのか、まだ夕方六時だというのに、決して閉まらないはずのコンビニのシャッターを閉め始めた。
雑誌を立ち読みしていた客ふたりも仕方なく引き上げていく。
副店長の妙子も諦めたのか、春樹に従って店じまいをはじめた。
その日の村上家のコンビニの売上げはたった十万円だった。
絆たちの店頭販売の健闘によるものだった。
それに対して、本部直営一夜城店舗は脅威の日販三百万を記録した。
この調子で売上げが推移すれば、村上家のコンビ二は早晩、潰れるしかないのは容易に想像できた。
元々村上家のコンビニの前は水田だったのだが、<8-12>本部が大枚はたいて購入してアスファルトで固め、広大な敷地に大型トレーラーで輸送してきた移動店舗を設営した。
それが<一夜城>の手品の種であった。
しかも、もはやコンビニとは言えない、スーパーかショッピングセンターのような多店舗コンビニ群が展開していた。
†
「皆さん、名演技でしたね」
AIの妖精ルナがタブレットPCの上に浮かび上がって、にっこり笑っていた。
そこは村上家のコンビニの休憩室である。
「絆ちゃん、女優かと思っちゃたよ」
ハネケが大笑いしている。
「<泣きの絆>という仇名にしちゃおうかと思う」
風守結菜が絆をからかう。
「私も必死なんだから」
「ごめんね。でも、笑いを噛み殺すのが大変だったんだから」
結菜も大笑いする。
「オトウサンモ ヘタレ スゴカッタデス」
「
妙子が皮肉る。
「おいおい。そうじゃないだろう!
春樹は反論した。
「ボクノ エンギモ ウマカッタデスネ」
みんなが大爆笑する。
「それにしても、ルナちゃんの作戦を聞いた時は、本当に驚いたよ。武田信玄かと思ったよ」
春樹は正直な感想を言った。
「この作戦のポイントは、私達が負けてるように見えて、実は勝ちつつあるということを、敵に気づかせないことでした。それで、皆さんにそういう演技をお願いしました。最後に立ち読みしていたお客も敵の手下の黒服軍団の変装した者でした。ただ、今回の作戦において、春樹お父さん、妙子お母さんの存在が大きくて、そして、絆ちゃん、ハネケちゃん、結菜ちゃん、
AIの妖精ルナはそこで一息入れた。
「すでに私達は勝ちつつあります。あとは明日に備えて寝るだけです」
ルナの言葉にみんなが応えた。
「明日はガンバルぞー!」
春樹の掛け声にみんなの声が重なった。
村上一家のコンビニの反撃がはじまる。
(あとがき)
次回、AIの妖精ルナの恐るべき作戦が炸裂する。
コンビ二家族とAIの妖精の前半のクライマックス「ドミナント戦略 VS 弱者のランチェスター戦略」をお楽しみに!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます