ずっと呪文
影宮
一度目
一つ呪いを唱えましょう。
二つ炎を灯しましょう。
三つ目のやるべき事は、はてなんだったか。
呪い殺したい?
呪い愛したい?
真逆であろうと望んだ欲を強く魅せて、その唇から垂れ流す息を、強い勁い毅い勍い倔い呪文の言の葉に入れ替えて。
忍は言った。
「これは忍術じゃない。呪術の言葉。」
ニタリと笑んだ顔には、偽りが潜んでいることを、まだ貴方は知らない。
知らないまま、言葉を追った。
望んだモノに辿りつけるなら、どんな手を使ってでも構わない。
忍は気付いていた。
貴方が何も知らぬままに、騙されてくれることを。
「人を呪わば穴二つ。あんたが人なら誰にも口にしないこと。あんたが人なら誰にも見られちゃいけないよ。」
指折りそう教えられる。
それが偽りであったとしても、それが真であったとしても、行先は二つに一つ。
「忍がなんで知ってるのかって?」
忍は影を纏って貴方の首を掴んで締め上げる。
「世の中、何も知らぬ方がいい事も、察して何も言わぬ方がいい事も、沢山あるんだよ。」
手を離せば首にはくっきりと紐で吊られたかのような跡が残る。
知らない。
貴方の目には忍でも人でもない、何かが移る。
「わかってるよ。あんたの目は相手を見抜ける事も。こちとらが忍術で騙しても見えてるんでしょ。」
ケラケラと忍は笑った。
夜闇に二つの炎が揺れた。
「こちとらの正体も、見えてる。けどあんたは、それが何か理解していない。そうでしょ?」
息を吸って、息を吐いて。
深く、深く繰り返す。
表情は見えない。
「いろはにほへとちりぬるをわかよたれそつねならむうゐのおくやまけふこえてあさきゆめみしゑいもせす。」
ゆるりと言の葉が耳に届く。
夜風の音が混ざり込む。
「蹴落としたきゃ唱えな。唱えて、好敵手を蹴落としたきゃ何度でも。」
からかうように目が細められた。
赤い血のような色をした片目が光っている。
忍は貴方の首を見て、大層楽しげに言った。
「知りたきゃ呪文くらい、いくらでも教えるさ。」
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