第6話 決着
この緊迫した空気、どこか似ている。戦が始まる前の空気に。
依然として腰を落としマチェーテを下段に構えた状態で硬直しているトカゲもどき。
これは自論だが、一騎討ちにおいて重要なのは初撃だと思う。初撃でどれだけ自分に流れを持ってこれるかが大事だ。
だから見逃さない、微かな体の動き一つ一つを、相手が放つ殺気を。
こちらも同じように腰を落とし、
店の向かいにある屋台に陳列してあるアルミ缶がカランカランと音を立てて落下した。
音に反応したのは両者ほぼ同時だった。
勢いよく地面を蹴り、斬り上げを繰り出す。
トカゲもどきも同じように地面を蹴り、マチェーテを勢いよく振り下ろす。
手にずしりと重い感覚、今度は逆に弾かれれ、体勢を崩したところに腹に蹴りを食らう。
石畳の上を3メートル程勢いよく転がる。
呼吸ができず、空気を求めて
やがてみぞおちの痛みも失せ、呼吸も可能になると、ヨロヨロと立ち上がる。
若返った分、力が弱くなり、純粋なパワーで押されてしまう。
起き上がった時には既にトカゲもどきは既に攻撃の態勢に入っていた。
二度目の斬り下ろしを何とか受けるも、力が入らず、またもや飛ばされてしまう。
今度は素早く立ち上がり、迎撃に備える。
体格差のせいか、またもや瞬時に間合いを詰められ、
間一髪で身を屈めて躱し、懐に潜り込み、下腹部に横一閃――その時、背中に悪寒が走り、攻撃を中断し、瞬時に背後に飛び退く。
すると、目の前をマチェーテの刀身が横切り、前髪を掠めた。
「ほう、勘のいいガキだ。あと少し反応が遅かったら今頃体にサヨナラしてたところだぜ」
厄介な事にこのトカゲもどきは戦い慣れている。
完全にペースを掴まれ、防戦一方だった。
体格差が顕著に表れ、分が悪いどころではなかったが、ただひたすらに待ち続けた。
――反撃の機会を。
攻撃を受ける度に体勢を崩され、こちらの攻撃は易々と防がれる上に、武器のリーチの都合上中々間合いに入れず、体力はみるみる奪われていく。
「最初防がれた時は正直ビビったが所詮はただのガキ、勝てるわけねぇんだよ」
そう言い、横一閃されたマチェーテを何とか剣鉈で受けるも、吹き飛ばされ、ギャラリーの中に転がり込む。
手を見ると、剣鉈をどこかに無くしてしまっていた。
視界の端にトカゲもどきの下っ端の姿を確認すると、走り寄り、腰のマチェーテをひったくる。
トカゲもどきの親分が歩み寄る。
「まだ生きてたのかよ。まぁいい、死ね――」
「兄貴、気を付けろ!」
そんな下っ端の声に耳も傾けず振り下ろされたマチェーテを、体を捻り、回転しながら跳躍して躱し、回転を利用し、奪ったマチェーテを鞘から抜き、斬り付ける。
回転しながら繰り出された刃は、トカゲもどきの咄嗟の反応もあり、胸の革製のベストを掠めるに留まった。
「粋なことしてくれるガキじゃねぇか……」
後ろによろめきながら言った。
「この武器……似ている。これならいける!」
そう思った瞬間、全身から力が湧いてきた。
地面を踏み抜かんとばかりに蹴り、一瞬の内に距離を詰め、スピードと体重を最大限に乗せた斬り下ろしを繰り出す。
「このガキっ! 何だ? この力は――」
体に届く寸前で防がれるも、上手く力を乗せられたお陰か、トカゲもどきは数歩後ろによろめく。
「「兄貴っ!」」
連中が武器を構え、人ごみを掻き分けこちらへと走ってくる――
「くんじゃねぇオマエらっ! これは俺のまいた種だ。テメェのケツはテメェで拭けねぇでどうやってメンツ保つんだよ」
意外にも連中の乱入を阻止したのは親玉だった。
「オレのツレが水差したな。さぁ、続けようぜ」
トカゲもどきはそう言うと、改めて先程と同じようにマチェーテを下段に構えた。
トカゲもどきに倣うようにマチェーテを下段に構える。
数秒の空白の後、殆ど同じタイミングで地を蹴る。
地を蹴り猛然と迫ってくる、何故かは知らないが、先程までと違ってとても遅く見える。動きの全てが分かる。
剣と剣が衝突する度に金属音が通りに響いた。
状況は五分五分だった。
両者の体にはいなしきれなかった刃が幾つもの掠り傷を作った。
何度目の衝突だっただろうか、これまでとは違った金属音が響いた。
その音が響いた瞬間両者の動きは止まり、辺りは静まり返った。
少しの沈黙の後、地面に欠けた刀身が落下した。トカゲもどきのものだった。
勝敗が決した瞬間に起こった歓声で、通りや、その周辺の建物が揺れた。
剣を鞘にしまい、無くしてしまった
「殺さないのか? 」
「殺しはせん、お前との一騎打ち、実によかったぞ」
トカゲもどきは少し涙ぐみ、俯いたまま人混みを後にした。取り巻きたちもそれを追いかける形で去っていった。
「疲れたな……宿屋で体を休め――」
体の疲労のせいか、視界が徐々に暗転し、抗う術もなく地面に倒れた。
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