第7話 血塗れのナイフ

 そういえば、いつも職質を受けても平気な顔してるけど、彼氏は本当はどう思ってるんだろう。

 なので本人に訊いてみることにした。


「職質って任意なんでしょ? なんで彼氏は断わらないの?」

「絶対、素直に応じた方が早いから」


 職質の所要時間が約二十分。

 つまり拒否するとそれ以上長く拘束されるということなのだろうか(ざわざわ)。


「同じ場所で職質を受けてると、警察官の方と顔見知りになったりしないの?」

「うーん、僕の方は何となくこの警察官の人見覚えあるなあ、みたいなことはあるんだけど、向こうがどう思ってるかは分からないかな 」

「訊いてみようと思ったこととかないの?」

「あるといえばあるんだけど……」

「?」

「なんか余計なことを訊くと 怪しまれそうで……」

「それ完全に犯罪者の心理だよ!」


 その時のことを思い出してふるふるとふるえている彼氏を見ていると、何だか私まで尋問したくなってくる(うずうず)。

 ええい、この警察官泣かせめ!


「えー、彼氏くん血塗れのナイフを持ってたときはどうやって疑いを回避したのかね?」

「尋問キタコレ! 釣り! 釣り用ね!  魚の血ね!!」


 彼氏が釣りの帰りに職質を受けた時に持っていた釣り用の小型ナイフについて質問してみた。

 すると分かりやすく説明してくれる。


「そもそもなんでナイフを持ってちゃいけないのかって話なんだけど、『銃砲刀剣類所持等取締法(銃刀法)』と『軽犯罪法』っていうのがあってね」


 簡単に説明すると、



 銃刀法


「業務その他 正当な理由による場合を除いては、内閣府令が定めるところにより計った刃体の長さが六センチメートルをこえる刃物を携帯してはならない」


 軽犯罪法


「正当な理由がなくて刃物、鉄棒その他、人の生命を害し、または人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具を隠して携帯していた者」


 *刃物の寸法は示されていませんが、銃刀法があるので基本 六センチ未満の刃物が軽犯罪法の対象となります。



「正当な理由って例えばどんなの?」

「一般的には購入した刃物を持ち帰る場合や、調理師が仕事上包丁を持ち歩かなきゃいけない場合(業務)とかかな」

「護身用とかは?」

「だめだね。ちゃんとした目的がないものはだめなんだよ。それにキャンプや釣りっていう用途がはっきりしている場合でも、充分な梱包をせずポケットに入れたりバッグに入れて持ち歩く事も違法になっちゃうんだよ」

「ふんふん」

「あと車に無造作に積んで走っていても違法なんだって」


『携帯』とは、自宅又は居室以外の場所ですぐに取り出せる状態で身辺に帯びることをいい、手に持っていることだけでなく鞄や車の中にいれておくことも含まれます。


「それは、車のダッシュボードとかに無造作に血塗れのナイフが置いてあったら完全に事件だもんね」

「釣り! 釣り用ね!  魚の血ね!(デジャヴ)」

「そもそも僕が使ってる釣り用ナイフは銃刀法には触れない短いナイフだし。毎回釣りに出かける時も帰るときも、すぐに取り出すことが出来ないように厳重に梱包してるよ!」


 直ちに取り出すことができなほど厳重に梱包しておけば『携帯』ではなく『運搬』と区分される。


「だけど、絶対にこれはOK! これはNG!っていうのはなくて、現場の警察官の判断に任されているところも大きいから、余程のことがない限り持ち歩かないのが賢明だよ!」

「まあ、普通の人は持ち歩きませんけど(ぼそっ)」

「ううう……彼女に鮮度の良い魚を食べさせてあげたいだけなのに。釣り人には生き辛い世の中だよ」

「あ、みんなにメンタル心配されてたけど、職質辛くない?」

「最初は辛かったけど、犯罪者じゃないって彼女がちゃんと分かってくれてるから……(ぽっ)」


 なんだこの可愛い生き物は!(顔は恐いけど)。



 というわけで彼氏、大丈夫とのこと。

 ちょっぴり安心した彼女なのでした。



 ちなみに指定サイズをこえたマイナスドライバーを持っている場合も、特殊開錠用具の所持の禁止などに関する法律で処罰される可能性があるので、ご注意ください。




 次回:彼氏のもとにかかってきた一本の電話とは……

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