第5話 白い粉(前編)

 某日。都内のターミナル駅。

 前日徹夜の彼氏は、仕事先に向かうべく急いでいた。


 * * *


 駅を出たところで、警察官が二人立っているのが目に入る。

 ここは駅を出てすぐのところに交番がある。なので最初は立ち番か何かかな? くらいにしか思わなかった。

 警察官をよけるようにして進もうとする。

 ススス、と警察官がよけた方向にスライドして彼氏の前に立ちふさがる。……あれ?

 もう一度よける。やはり同じようにスライド。

 某国民的RPGでいうところの「彼氏は逃げ出した。しかし回り込まれてしまった状態」だ。


 これはまさか……?


「ちょっといいかな?」

「協力してもらってもいいかな?」


 職質キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!!!


 面倒くさいなとは思うものの、前日徹夜で顔色もあまりよくない。

 出かける前に彼女に「うわっ 半年くらい寝かされて良い感じに発酵したゾンビかと思った」とも言われていたし(男泣き)、声をかけられるのはまあ仕方ないかな……とも思う。

 ここは善良な一市民として協力しよう。そう考えて彼氏は素直に足を止めた。


「それじゃあちょっと危ないものを持ってないか確認させてね」

「持ち物はこの袋に入れてもらっていいかな 」

「はい」


 警察官が渡してきた網目状の袋に手荷物を入れて、駅の入り口の真ん前で身体検査開始(道行く人々の視線が痛い……)。

 尻や胸をまさぐられる(誇張表現)。

 財布を出す。この日はラッキーなことにカードを詳しく見ようとはしなかった。


「それじゃあポケットの中も見せてもらってもいい?」

「もちろんいいです――」


 そう言いかけて、

(……あ)

 だけどそこで彼氏は思い出した。

 待った。 今日は――やばい!

 別に危ないものを持っていたわけではない。

 今までで持っていて一番ヒヤリとしたのは、釣りに使っている活け締め用のナイフだ。銃刀法には引っかからない程度の刃渡りであるが、若干血まみれであるため(魚の)、見た目的にはあまりよろしくない一品である。

 しかし、それも今日は持っていない。

 下痢ストッパも胸ポケットに入れていない。

 ただし見られるとはてしなく誤解されかねないものをこの日はたまたま持っていて……


「ん? これは……」


 警察官の眼光が鋭くなった。

 ああ、やばい。

 とはいえ今さら拒否するわけにもいかないので素直に出す。



 ポケットの中から出てきたのは……ラップにくるまれた、『白い粉』だった!



「……」

「……」

「……」


 空気がざわっとする。

 警察官の間に「容疑者キター!!」みたいな雰囲気が漂う。

 警察官は目配せをした後に、二人揃って真っ直ぐにこっちを見ると、こう言った。



「――ちょっとそこの交番まで来てもらえるかな」





次回:彼氏が所持していた「白い粉」とは……!? 交番に連れて行かれた彼氏の運命やいかに!


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