soixante-quatre
んで結局“脱落組”と化した私とてつこは隣同士でもさもさと料理にありついてる。一体何しに来たんだかとカップルになりそうなぐっちーを尻目に思う私、とは言え一応参加者である私たち、人によってはカップルに見えてたりするのかな?
「何やってんだろうな俺」
てつこも似たようなこと考えてたんだね。
「今言わないで、悲しくなるから」
「悪い。けどこれって一体誰得なんだろうな? って考えたらちちょっと虚しくてな」
杏璃の為でしょ? って言いたいところだけど、結局あの母親だって体裁構った上での引き取りを“画策”してるのであれば最終的に得なんてしないんだろうな、娘が懐かないのは目に見えてるし……短期間“親子ごっこ”したらすぐに飽きてポイってするんじゃないの? 八年前と同じように。
「杏璃の幸せを考えれば、なんて思ってたけどアイツが母親役の女性を欲しがってるとも思えなくてさ。俺が杏璃を手元に置いておきたいが為に……それも単なる自己満なのか? とかって考え出すと訳が分からなくなる」
何か小難しく考えてるみたいだけど、娘の進退がかかってるだけに迂闊な判断も出来ない状況だもんね。杏璃にも話した上での今日だから、少なくとも父の行いに対して反発はしてないんじゃないかな? と思う。
「仮にアンタの自己満でも杏璃は中西家に居たいと思ってるよ、でなきゃ今日のことだってこうやって送り出したりしないって」
そうかもな……てつこはようやく笑顔を見せる。
「ほら! こんな所にいないで気に入った女性がいるなら声掛ける!」
私は景気付けにてつこをけしかけてみたけど、特に動きを見せるでもなく食事の手を止めない。
「俺今回はパス、ピンとこなかったんだ。なつこそ野村に行かなくていいのか?」
「何でよ? 元同級生以上の感情なんて無いって」
あっそう……てつこは何か言いたそうにしてたけど私にもその気が無いと思ったのか言葉を飲み込んだみたいだった。
「さっきのなつじゃないけどすっげぇ疲れた、食える分だけ食って帰らないと損した気分になる」
「だね……あっ! 新しいお料理来た♪ アレ食べよう」
「んじゃ取ってってやるよ」
てつこはすっと立ち上がって二人分のお料理を取ってきてくれた。それから約二~三時間のフリートーク中、私たちは少しずつ出来上がっていくカップルたちを尻目に、普段通りの色気ゼロな状況でやり過ごしたのだった。
「今回は四組のカップルが誕生致しました!」
といつでもどこでもハイテンションな部長による結果発表、三十分の四って確率的にどうなんだろうね?って気もするけどゼロよりは良いのか。
そう言えば水無子さんあの銀行員さんとずっと一緒にいらしたし、東さんと睦美ちゃんも何だかんだでおモテになってらしたからひょっとするんじゃない? そうそう、ぐっちーは完全にゲットしたよね? 確か二十三番の彼女、ずっと楽しそうにしてたもん。
「先ず一組目は男性二番と女性二十三番、二組目は男性十八番と女性六番、三組目は男性二十六番と女性九番、最後四組目は男性三十番と女性二十八番。カップル成立おめでとうございまーす!」
結果発表に伴って起立してる八人に温かい拍手が送られる。ぐっちーやりおったな、このままゴールインってこともありそうなくらいにいい雰囲気じゃないの。水無子さんもおめでとうございます、同郷ってのが縁を結びましたね。いやぁ自分の方はからっきしだったけど、知り合いが上手くいくってのも幸せな気持ちになるね。
「今回カップルにならなかったとしても別の形でのご縁はあるかもしれません、婚活パーティーではありますが皆さまの一期一会のお役に立てれば幸いに思います。本日は長時間お疲れ様でした、そしてお忙しい中このためのお時間を頂き誠にありがとうございました!」
午前中から始まったこの会も気付けば日が傾き始めていた。もうじき冬至なので午後四時前でもちょっと薄暗くなっている。
「水無子さんこのままデートするみたいよ」
隣にいる東さんがこそっと教えてくれる。
「帰るにはちょっと早いし。この後予定ある?」
「いえ特に。手前味噌ではありますが家の近所の居酒屋、行きますか?」
「んじゃ睦美ちゃんも連れて行きますか、あの子不完全燃焼みたいだから……それじゃ水無子さん、私たちはお先に」
私たちはカップル成立でデートの続きをすることになってる先輩と別れ、“合戦”に敗れた三人で自宅近所の居酒屋へ向かうことにした。
「婚活に敗れてここに来た、ってか」
今回私が二人を招待したのはゴローちゃんのお店、時間的にも早いのでお客さんもほとんど居ない。
「そっ! 酒でも飲まないとやってられませーん!」
「その割に大してやる気無ぇのどこの誰だよ?」
ゴローちゃん、アンタにため息吐かれる筋合い無いわ。
「これだけ張り切ってるのにどこがやる気無いってのよ?」
私は姉に作ってもらったお洒落モードを披露するけど、時間経っちゃってるから多少のよれっと感は否めないな。
「もっと言ってやってくださいよご店主~、夏絵さんったら司法書士の同級生放っぽって腐れ縁とビュッフェに夢中なんですよぉ、それってどう思うますぅ?」
睦美ちゃんは早くも酔っ払い気味でゴローちゃんに絡み始めてる。有砂一筋の彼はちょっと引き気味、けど見た目の雰囲気
「色気より食い気かよ……ってか腐れ縁って?」
「てつことぐっちーも同じ婚活パーティーに来てたのよ」
「へっ? てつこが婚活?」
マジかよ~! 確かに意外だろうけど結構なオーバーリアクションだよそれ。
「へぇ、
楓さんも意外だと言わんばかりの表情を浮かべてる。何かあったのかな?
「えっ? 何です
「あぁ、ちょっとね。このこと知ったら安藤カンナがどう思うのかしら? って」
ん? 何故に安藤?
「あの二人高校が同じってこと、忘れてない?」
「いえ忘れてませんよ、有砂とも同じだったんですから」
てつこが通ってた高校は県内全域から入学募集をする総合高校で、普通科のみならず商業科も工業科もある学校だ。因みにてつこは電子工学科、安藤は建築デザイン科、有砂は商業科に通っていた。
「あの二人、付き合ってたかどうかは不明だけど当時ちょっとイイ仲だったらしいのよ」
へぇ、全然知らなかった。
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