平凡な女には数奇とか無縁なんです。
谷内 朋
ガチで婚活三十路前 〜ハイテンションな見合相手編〜
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今日は人生初のお見合いの日。
私
「夏絵ちゃん、着物よく似合ってるわね」
そう言ってくれるのは近所でリフォーム業を営んでいる
名前を出してしまったので息子のらんちゃんの事も少し説明させて頂くと、彼は四歳歳上の幼馴染で今はご実家のリフォーム会社四代目社長だ。今でも現場でバリバリ働いているし歳よりも若く見られるのであまり貫禄は無いけれど、それでも仕事が早くて丁寧と評判も上々だ。プライベートでもご近所のマドンナ
……と言ってる間にお相手の方がやって来た。えーっと、名前は確か
二流公立大学卒、二流文具メーカーの本社ビルで日夜会社の金の動きを管理している。経理課一般職勤務の地味女には勿体無い案件ですなぁ。正直写真の時点で断ってくれるかと淡い期待もしたけれど、この方ストライクゾーンがとってもお広いみたいであれよあれよとお見合いが決定してしまった。
『男から断るってそう無いらしいぜ、良かったななつ姉』
と
「初めまして、霜田景樹と申します」
しもだけいじゅさんね、もう間違えません。パステルカラーとはほぼ真逆、さっきまでの脳内独り言は墓場まで持って行きます。
「五条夏絵と申します」
そうそう、挨拶はきっちりと、ね。何にしたって第一印象はとっても大事、特に美人には程遠い私みたいなのは残像に残りにくいけど、それでも悪目立ちはしたくないわ、おほほ。
「景樹さんはね、
とは霜田さんサイドの仲介人の方で、確かお名前は
元々はお菓子メーカーだったらしいんだけど、ぶっちゃけて言えば高級志向過ぎて一時期経営が悪化して、それでもこの不況の中企業努力を怠らずに耐え忍んだ結果、今や看板商品である“浪漫カフェ”と言う名のインスタントコーヒーが爆発的にヒットして今や業界三位の一流企業に返り咲いたってかなり前にテレビでやってたわ。
余談だけど我が家の朝食に“浪漫カフェ”は欠かせない、百グラム二千円超えとやっぱりちょっとお高いけどアレの味を知ったら他のが飲めなくなってしまった。中元歳暮にはコーヒーギフトをくださいとは言えない、さすがに今言うのは厚かまし過ぎる。
「左様ですの? “浪漫カフェ”は美味しいですわよね」
相変わらず時雨さんはノリが良過ぎる、コーヒー全く飲めないのに……これじゃただの悪ノリだ。
「えぇ、家でも毎朝頂いています」
一応フォローしておこうかな、とは言え時雨さんはなかなかの情報通だから多分何やかんやであっさり乗り越えてくれるんだろうけど。因みに彼女はホットココアが大好きで姉宛に送られてくるコーヒーギフトを解体し(一応許可は得てるみたい)、ココアだけを持って帰っていく。まぁ家は誰もほとんどココアを飲まないから良いんだけど、たまに欲しくなって探しても大概は彼女の手に渡っている。
【今年こそ一つだけでもココアを残してもらう!】
と姉が年明けに参拝した神社で絵馬に力強く書いていた事を私は知っている。三十過ぎた人間が千円ほどする絵馬をわざわざ買ってそれを願い事にするか? とも思うんだけど、何度かお願いしたけどあっさり忘れ去ってくれるから姉にとっては神頼みレベルの事案に昇格したようだ。
「そう仰って頂けて嬉しいです。手前味噌ですが私もよく飲みますので」
良かった、突っ込んで聞かれなくて。隣の時雨さんも似たような表情をしている、言ってから『しまった!』くらいは思ってたのかも。
「そう言えば五条さんは文具メーカーにお勤めと伺っていますが」
「えっ、えぇ。でも経理課ですので商品の事はそれ程……」
「私、
なっ何が始まった? ってか私勤務先の名前すら言った覚えが無いのですが? って事は時雨さんだな。私はしれっと座っているアラ還美女をチラ見してやる。そんな私を軽く無視して霜田さんはどんどん話を進めていく、正直全く付いて行けてませんけど。
「私左利きなのですが、大抵のメーカーは左利き事業に力を入れていないのですっ!」
あぁ、そういう事ですね。我が社の場合先代社長が左利きですから、理由は単にそれだけです。因みに今の社長も左利き、先代の次男坊だから遺伝ですね。ご長男はって? 彼は職人気質で日夜新商品開発に没頭してらっしゃいますよ、案外霜田さんと気が合うんじゃないかしら? って余計な事考えてて話聞いてなかったわ。
「この万年筆は就職祝いに頂いて以来十年使い続けていますが、劣化どころか書きやすさが増しているんですっ!」
十年前って事はまだ先代の頃の職人さん……つまり先代のお兄様ですね。海東家は基本的に長男が職人気質で次男が経営者気質みたいだ。職人気質って事は多分出世とかに興味が無いのだろう、絶妙なバランス取ってるな海東家。
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