#074:煩悶かっ(あるいは、シャンテン数の上がらない慟哭)


「ふ、フハハハハッ!! 里無サトナシを自ら選択するとはっ、まったく浅はかな奴よ、水窪ミズクボッ!!」


 対峙してもその熱が全く伝わって来なかった黒髪の痩せ女をしばし見やっていると、場外の埒外から、そんな最大限、腹からの声張りましたみたいな耳に障る音声が響いてきた。


 ……お前、カレーなる一発カウンターくんこと、印南インナミじゃねえか。つい先刻えげつない電流浴びてKOされたばっかじゃんよ。もう立ち直ってきたか。褐色の肌をしっとりさせながら、私らの対局場である巨大な円形の「脚場」の円周外から高らかにこの場に介入してこようとしてくるけど。


ラブホにありそうな、色も素材もうっすいピンクのガウンみたいなのを身に着けてはいるけど、いったん水没したからか、髪ぺっしゃで顔さっぱりで、まるで別人……その何をオマージュしてるのか分からないけど、精神の端っぺたに来るテンションで何とか判別出来たわ。出来たけど、何であんたが「造反組」の味方みたいなスタンスなのよ。


「元老のしがらみから放たれた、我は自由……っ!! いち敗北者として水窪ッ!! キサマの精神を揺さぶるまでよッ!!」


 そのメンタルの源泉も謎なんだけど、コイツに煽っといてもらっといた方が、諸々進行がやりやすくなるのでわ……そんな打算的な思考も浮かんできたので、とりあえずそのままにしておく。周りの観客のボルテージも上がってきたみたい。降って来る、野太い歓声とかが。


「ククク……その里無は元老いちの『ネガティブ=ダメロマンサー』よぉ。ダメの源泉、ルーツに近いDEPの使い手……水窪ッ、キサマの似非人格DEPとはッ、そもそもの格が違うのだよぉぉぉぉぉっ!!」


 ほんと、よくさえずる。いや、ええねんけど。


 でも最近とみに思っていたんだけど、「ダメ」って元々はネガティブなものじゃない? でも元老はじめとする、末端の……カリヤ、ダテミ、ユズラン、土師潟ドシガタ……とかは皆、はち切れんばかりの謎のポジティブ人間ばっかりだったことに、ふと、得も言われぬ何でだろ感が湧いてきた。いや今更。


 「ネガティブ」。普通は良くないことではあろうけど、ダメ人間にとってそれは強力無比な武器になるわのよね……改めて、極めてネガっぽい表情を浮かべたままの里無のヤバさに気付き始める私。


<決勝第一戦、第3ピリオドっ、水窪選手 VS 里無選手っ!! 対局開始ですっ!!>


 そうこうする内に私らの対局番だ。「指名アドバンス」のある私は、とりあえず相手の出方を見たいから「後手」を選択した。さあ……どう出る?


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