【第54話:本当の力】
周りで混乱している騎士団に、一旦街に戻って守りを固めるように叫ぶと、シグルム団長がどうにか態勢を立て直し門へと戻っていく。
何人か犠牲者も出ているようだが、シグルム団長の的確な指示により、深刻な事態までには陥っていないようだ。
そこにこの数日で見知った顔を見つける。
負傷しながらもオットーも無事だったようだ。
己の無力さを突きつけられ、悔しそうに唇を噛みしめながらも、目が死んでいないその姿に少しオレは笑みを浮かべる。
「頑張れよ」
口の中だけで小さく呟き、若い騎士の
~
混乱の中、騎士団が撤退する助勢をしながら、リシルたちのいるその場に辿り着くと、そこには無数の魔物の屍が転がっていた。
まだ霧散していない躯に目をやると、そのことごとくが首を切り裂かれている。
「強いとは思っていたが、予想以上だな……」
ギレイドさんが縦横無尽に駆け回り、その鉤爪で的確に魔物の急所を引き裂いて回っているようだ。
そしてそれをカバーするようにリシルも立ち回り、着実に魔物の数を減らしている。
まだ日が高いので真の力は発揮できていないが、ナイトメアのメルメも奮闘し、戦闘は有利に進められていた。
「だが……
リシルはどうしても長期戦を見越して魔法を抑え気味で戦わなければいけないし、ギレイドさんはどちらかと言うと1対1に特化した肉弾戦主体の戦い方をしているので、このままだと多勢に無勢で押されてしまう危険がある。
まだオリビアさんがダルド様の側について守りに徹しているので、その分少しは余裕があるのだが、次々と現れる魔物の数が尋常じゃない。
「待たせたな!」
とりあえずリシルに声をかけると、視線を送ってダルド様にも合図を送り、オレは一人群れに飛び込んでいく。
≪緑を司る解放の力よ、我が魔力を糧に衣となりて道を示せ≫
≪
オレの動きに合わせるように詠唱され、目の前に現れた魔法陣を駆け抜けると、爆発的にあがったスピードに任せるように闇を纏った聖魔剣を振るう。
一瞬で魔物の群れの中心まで駆け抜けた時、思い出したように切り裂かれた魔物たちが霧散する。
今までの抑え気味で使っていたレダタンアとは桁違いの力だった。
「す、凄い……」
そのあまりの威力に、一瞬戦場の時が止まる。
遠くで呟くリシルの言葉が微かに聞こえるほど、その場を静寂が支配していた。
「な、何者だ!?」
後ろに隠れていた一人の慟魔の叫びで、その静寂が破られ、続いて我に返った鬼人の二人がその巨体に似合わぬ速さで斬り込んでくる。
巨体に見合わぬそのスピードと、A級冒険者を凌駕する技。
鬼人一体に騎士の小隊が潰される事もあるほどだ。
「がぁぁぁ!!」
唸り声をあげて2mを超える巨剣を振り下ろしてくるその姿は、リシルにオレの死を想起させるには十分だった。
「テッド!!??」
少女らしい透き通った声が、叫びとなって響き渡る。
しかし……、
「数人の鬼人ごときに遅れは取らないさ」
迫りくる巨漢に抗うようにその一歩を踏み込むと、オレはその振り下ろされた剣を右へと受け流す。
地面を陥没させる巨剣を尻目に、救い上げるように振るったレダタンアで鬼人を二つに分断する。
「ぐがぁ!?」
自身の身に何が起こったかを知る前に命を刈り取られた鬼人は、しかし一体では無かった。
延びた剣閃は後ろの鬼人の首をも落とし、それでも止まらず後方に無数にいる魔物の数体をも死への旅路の道ずれとする。
「なっ!? 馬鹿な!?」
驚く後ろの慟魔を次の獲物として捉えると、身に纏う闇を更に濃くして縮地という歩法でその距離を意味の無いものにし、こちらに気付く前に胸を貫く。
今度は貫いた剣を天に向かって跳ね上げると、隣に控えていた護衛役の二体の魔物を纏めて袈裟切りにして霧散させる。
その時だった……心臓が跳ねた気がした。
「なんだ……まぁ……いいか……それより……」
敵だ……。
敵は……どうする?
「敵は……
高揚感に呑まれるように、魔物の群れに飛び込むと、
「はぁぁぁぁ!!!」
裂帛の気合いと共に、黒き剣閃を振るう。
一振りするごとに纏めて何体もの魔物が霧となって消えていく。
そのたびに……オレの中に魔力が流れ込んできた。
「さぁ……終わりの始まりだ……」
~
そこからは記憶が曖昧だった。
聖魔剣から流れ込んでくる全能感に身を
目に入る
途中で鬼人や慟魔どもも何かを喚きながら抗ってきたが、その魔法ごと切り裂き、その巨剣ごと圧し折った。
「な、なんだコイツは!? て、撤退だ!!??」
遠くで
撤退させて、いいのか?
敵は……逃してもいいのか?
「敵は……
多くの屈強な高ランクの魔物を従えた慟魔が、残っている魔物を壁のように展開して離れていく。
「敵は……逃がさない……」
立ち塞がる無数の魔物を鎧袖一触斬り倒し、その一角に楔を打ち込む。
ぽっかりと空いた空間を、今度は
「なっ!? き、貴様はいったい何者なんだ!?」
信じられないと呟き、驚愕の表情を浮かべる慟魔に一言だけ返す。
「ただの……忘れられた元勇者さ」
敵を倒す高揚感に染まる思考を無理やり押しやり、絞りだした一言に自嘲気味な笑みを浮かべる。
「ゆ、勇者だと!!??」
叫ぶ慟魔に、だから最期の一言を告げる。
「だから忘れんなよ? オレは……勇者テッドだ!」
七つの剣閃で貫いた慟魔の姿を最後に、オレの思考は途絶えた。
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