【第50話:答えが見えない】
「つまりは……無事に街に着いた時に戦う相手は、
本当に厄介な事になりそうだ……。
勇者だった頃も、何度か魔人信仰の奴らと戦ったことがあるし、盗賊や山賊を打ち倒したこともある。
人を殺めると言うのに抵抗が無いわけではないが、この世界は厳しい。
誰かを守るために避けられない場合には、その覚悟は出来ている。
しかし、今回はそう単純な話じゃない。
謀反を起こした騎士団自体の強さも厄介だが、どうやって騎士団を
騎士団の騎士全てが魔人信仰だとか、騎士全てが賄賂を受け取って魔人と結託しているとかなら話は簡単だ。
そこまで腐っているなら打ち倒すしかない。
しかし、実際には一部の騎士が何らかの謀略を仕掛けていると考えるのが妥当だ。
もしそうなら……騎士団の大半は踊らされているだけの善良な騎士たちだ。単純に倒せばいいという問題ではない。
仮に仕方なく騎士団を倒す事になったとするとどうだろう?
恐らく魔人どもの目的はその先にある。必ず何かを仕掛けてくるだろう。
その時に、騎士団が機能していなければ……それもまた奴らの思う壺だ。
それにオットーの事も気になる。
もし街に着いた時、騎士団が襲い掛かってきたら、彼はどうするつもりなのか?
そしてオレは……彼に対してどうすればいいのか……。
名を知り、事情を知れば、もう他人だと無視する事はできない。
一体何段構えの陰険な作戦なんだ……。
オレは気付けば深いため息をついていた。
「ふぅ……中々嫌な手を使ってきましたね。一応お聞きしますが、騎士団が向かってきた場合は……どうするおつもりですか?」
騎士団を倒すとなると多勢に無勢で難しいだろうが、真っ向からぶつかっても簡単に負ける事はないだろう。
先ほど聞いた話では、騎士団には
それに対して
その数こそ非常に少ないが、魔人たちの中でもその強さは一目置かれるほど。
一人一人がS級冒険者に並ぶ強さを誇るのが
街にいるという数人の吸血鬼たちと合流出来れば、セギオンの街に常駐している騎士300名相手でも、そうそう負ける事はないだろう。
しかし、その強さを発揮するには正体を明かす必要がある。
「うむ……正直悩んでいるところだ。謀反を起こしたその理由如何では、一族の者を引き連れて逃げる事を選択するかもしれん。ただ、俺たちが逃げた事で、この領地が魔人国に占領されるというのは、絶対に許しがたい」
このままでは、どう転んでも厳しい状況に追い込まれるだろう。
勇者の頃の力を失い、求心力も発言力もない今のオレには、出来る事は限られている。
戦闘の手助け程度は出来るだろうが、それにしたってレダタンアを抜く必要があるだろう……。
いや……まてよ……今のオレだからこそ出来る事があるんじゃないのか……?
「ダルド様。成功するかは少し賭けになりますが、私の考えをお聞きいただけますか?」
その後、考えを纏めながら話し合いを行い、遅れを取り戻すためにと、すぐに強行軍を再開したのだった。
亡くなった騎士を弔った後に……。
~
リシルの魔法により、最後のコボルトアーチャーが風の刃に胸を切り裂かれて地に伏せた。
「これで最後の一匹ね。本当に襲撃もこれで終わりなのかしら……」
強行軍を再開してから、二度目の襲撃が終わった。
一度目は200匹近くのゴブリンの群れ。
そして今回の襲撃が、逃げ回りながら距離を取って戦うコボルトーアーチャーたちだった。
どちらも一匹一匹では弱いが、朝を迎えてからの襲撃だった為にメルメの黒き炎が使えず、少し時間を取られてしまった。
しかし、魔人から聞き出した情報に間違いがなければ、これで時間稼ぎのための襲撃は終わりのはずだ。
「テッド様、リシル様、ご苦労様でした。グレイプニルにかなり疲れが溜まっているようですので、一度ここで休憩を取ろうとの事です」
既に夜が明けて昼になっているが、街を出てからまともな休憩はまだ一度も取っていない。
さすがにテグス自慢のグレイプニルの持久力をもってしても疲れが溜まってきているようで、オレから見てもその疲労の色が見てとれる。
騎士オットーの乗るラプトルも、ゾイが乗っていたラプトルと乗り換えつつ走る事で何とか誤魔化しているが、先日訃報を知らせるために無理をしたばかりなので、こちらもかなり疲弊している状況だった。
「休憩中は私とオリビアの方で警戒に当たっておきますので、ゆっくり休んで下さいませ」
「それはちょっとありがたいですね。助かります」
ナイトメアのメルメはまだまだ元気なのだが、オレやリシル、特にリシルは戦闘だけでなく常に魔眼で警戒を続けながらの移動なので、正直心配していたのだ。
ありがたく休憩を取らせてもらおう。
~
携帯食で軽い食事を取り、ゆるりと寛いでいると、馬車の窓から一匹の蝙蝠が飛び立っていく。
「ねぇテッド。あの蝙蝠はなに?」
「ん? アレは
確か距離の制限があったはずだが、
ようやくセギオンの街がその範囲に入ったのだろう。
「へぇ~。面白い魔法ね~」
「聖魔法でも似たようなのあるじゃないか」
オレがそう言うと、ちょっと拗ねた表情を浮かべて、
「あの白い小鳥のでしょ……子供の頃、母さんに教えて貰ったんだけど出来なかったのよ……」
と口ごもる。
そこでオレはリシルの手を両手で握り、
「大丈夫だ。オレも出来なったから。使い魔系の魔法はイメージ特に難しいからな」
うんうん。と、良き理解者をよそおって揶揄っておく。
「!? い、一緒にしないでよ! 私は緑属性の方が得意なんだから!」
顔を真っ赤にしながらも否定するリシルを眺めつつ、
「え~? 一緒でいいじゃないか。オレも黒属性の方が得意だぞ?」
と他愛のない会話を続ける。
こんな会話も暫くできなくなるのだろうかと、憂う気持ちを隠しながら。
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