【第36話:優秀】
頬に傷を持つそのナイトメアの名前は『メルメ』と言う。
今はナイトメアの中の上位種に変化して漆黒ではなくなっているが、その威風堂々とした立ち姿は昔を凌ぐ風格をはなっていた。
「成功しちゃったのね……あっ、テグスさん、おめでとう!! 凄いですね!」
「おぉ! 嬢ちゃんありがとうな! これで嫁にも酒場の飲み仲間にも、今度こそ胸を張って自慢できるってもんだぜ!」
「僕からも祝福させてもらうよ。おめでとう! いや、しかし本当に凄い場に立ち会わせて貰ったよ。良い経験になった」
まだ魔物の出る可能性のある洞穴の中なので油断は出来ないのだが、オレ達は
オレは少し複雑な気持ちもあったのはあったのだが、しかし本当に嬉しそうなテグスの姿をみたお陰で、心から喜びを噛みしめる事ができた。
「テグス……本当に凄い事だよ。やったな」
「そんなあらたまって言うなよ。ちょっと照れるぜ! それで、こいつはテッドに譲渡すれば良いんだな?」
しばらく
そのために誰を主とするのかと、テグスがオレに尋ねてきた。
「いや。オレでは無くて譲渡はリシルにしてくれないか」
オレがレダタンアを抜いた時の対策で主人の登録はリシルにすると決めてあるので、そう言ってリシルの方を振り向いて頷きあう。
「お? そうなのか? まぁ俺はどっちでもかまわねぇが、ちゃんと面倒はみてやれよ? ナイトメアみたいな魔獣が野生化なんかしたら目も当てられねぇからな?」
魔獣と
よほどひどい扱いをしない限りそのような事は起こらないので普通はまず問題ないのだが、一応譲渡する時のお約束で必ず
「そんな事当たり前じゃない! ちゃんと大事にするわよ」
だが、そういうお約束を知らないリシルは信用がないのかと、ちょっとふくれっ面だ。
ちょっと可愛いし、面白いからこのまま置いておこう。
「それじゃぁ、
リシルは少し緊張した面持ちでナイトメアに近づくと、オレが先ほどコッソリと触れた首筋にそっと右手を添える。
「じゃぁ暫くそのまま動くんじゃねぇぞ」
テグスはそう言うと両手を前に突き出し、また陽炎のようなものを放ち、今度はナイトメアだけでなくリシルの身体も包み込んでいく。
そして暫しの静寂。
ゆっくりと数回の呼吸をする程度の時間が流れたのち、
「ふぅ~。受け入れてもらえたぜ。これでそのナイトメアは嬢ちゃんの従魔だ!」
息を大きく吐きながら伝えてきた。
「これからよろしくね。あなたの名前は『メルメ』よ」
ナイトメアと側にいるオレにだけ聞こえるような声で「知ってると思うけど……」と付け加え、リシルはメルメの首を優しく撫でながらオレに一瞬視線を送ってくる。
リシルには話していないその名前を知っているというのは、母親の手記を見て知っていたのだろう。
そしてオレの機微に聡いリシルは気付いたのだ。
このナイトメアの前の主人がオレだったという事に。
「しかし、意外とあっけないものなのだな」
あっけなく譲渡が終わった事にゲイルが声を漏らすが、昔テグスに聞いた話を教えてやろう。
「まぁ見た感じではそう見えるが、
「そうだぜ? 簡単に見えるのは俺が優れた
ガハハと豪快に笑いながら自慢げなテグス。
「なんか腹立つぞ……話すんじゃなかったか? まぁ譲渡が大変なのは本当らしいし、実際にナイトメアを
「そうね。1刻かからずに成功するとは思わなかったしね」
「でもよぉ。正直突然
こうしてオレたちのナイトメアの
~
「おぉぉぉぉ!! すげぇなおっさん!! 本当に
馬車の位置まで戻ってきた、オレたちの後ろに付き従うナイトメアの姿を確認し、デリーは凄い興奮の様子だ。
「ガハハハ! 見たかデリー! これで昔の話はともかくナイトメアを
「わ、悪かったって。もう疑ったりしねぇよ! しっかし、すげぇな!」
二人が楽しそうに言葉を交わしている様子にオレは内心少しホッとしつつ、
「色々ゆっくり話したい所だが、今日は出来るだけキラーアントの巣穴から離れた所で野営したいし、さっさと出発するとしようか」
そう言って出発を促す。
ナイトメアがいれば普通の魔物は襲ってくるような事はまず無いのだが、虫系の魔物は自分より強くても関係なく襲ってくることがあるので、出来るだけ昨日見つけた巣穴からは離れた所で野営をしたかったのだ。
「そうだな。ぞろぞろ出てこられても面倒だ。しかし……ナイトメアはさすがだな。結界石がまったく効果を発揮していないようだ。僕もこの街を出て旅をする時は、いつかはナイトメアのような強力な従魔を手に入れたいものだな」
まだ馬車の周りには回収していない結界石が並べられているのだが、ナイトメアが足元にある結界石を意にも留めない様子に感心したようにゲイルが呟く。
「まぁ上位の魔物や魔獣にはほとんど効果がないからな。それより出発するぞ」
その後、馬車の後ろにナイトメアを繋ぎ留め、結界石を回収すると、ようやく街に向けて出発する。
また
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