【第11話:扇動】
その魔物の名を聞いて思わずオレは「厄介な相手だな……」と呟いていた。
『
魔物の中で最高位の種族として有名なのは竜種と巨人種だ。
その一つである巨人種の中では
しかし巨人種自体が非常に頑強な種族のため、下位であるサイクロプスですらランク6とされており、かなりの強さを誇っている。
どれぐらい強いかと言うと一般的な衛兵が何十人いても勝てない。数では勝てないのだ。
並の剣ではほとんど傷もつけられない頑強な肉体に、巨体から繰り出される怪力は弱兵を薙ぎ払い、雷撃を纏う特殊能力は通常の盾を貫通する。
改めて考えてもどれも厄介なものばかりだ。
しかし……本当に厄介なのはその尋常じゃない体力と驚異的な回復力の方だ。
いくら傷を負わせても昼夜攻め続けても、その無尽蔵の体力と超回復で回復してしまうので倒しきれない。
サイクロプスを倒すには一定以上の非常に高い攻撃力が求められるのだ。
「サイクロプスか……オレの魔法では倒しきれないな。リシルの方はどうなんだ?」
オレはリシルならもしやとわずかな期待を込めて聞いてみたのだが、
「残念ながらもっとも苦手なタイプよ……私はスピードと技で戦う戦闘スタイルだから、私の攻撃でいくら浅い傷を負わせても与えたそばから回復してしまうでしょうね」
返ってきた答えは残念なものだった。
「まぁサイクロプスを倒せる奴なんて限られているよな……厳しい戦いになりそうだが何とか頑張ってみるしかないか」
「……そうね。テッドさんがどうして本気を出さないのかがわからないんだけど……。本気だしたらサイクロプスなんて敵じゃないんじゃないですか?」
なんだかジト目で凄く見つめられているが、本当に今のオレでは厳しい戦いになる。
誤解は解いておかないといけない。味方の戦力を見誤ると危険だ。
「変に期待されて戦局を読み間違えられても困るから言っておくが、オレが昔勇者だったかどうかはともかく、今のオレでは厳しい戦いになるのは本当の事なんだ。期待して遠くから来てくれたのかもしれないが……悪いな」
オレがそう話すとリシルは最初少し不満そうな表情を浮かべていたが、真剣な態度で話す言葉にどうにか信じてもらえたようだった。
「わかったわ。何か理由がありそうね。でも……そうなるとサイクロプスは相当厄介よ。しかももう近くに発生していてこちらに向かって来ているんですけど……」
「な!? 罠を作る時間も取れそうに無いのか?」
オレはどこかに少し大掛かりな罠でも用意して、そこに
だが、どうももうそんな時間は無いようだ。
「そんな時間は無いでしょうね。さっきの2度目の轟音はサイクロプスの仕業よ。もう時間がないんだけど、さっきここの住人を落ち着かせた所なのに、いきなりこんな話聞かせられないでしょ? だからこうやって小声で話してるんじゃない」
リシルはそう言って集まりだした自警団や、有志で集まった手伝いの人たちに目を向ける。
「もう時間が無いなら覚悟を決めて真っ向から戦うしかないか……。他の人たちが混乱しないように自警団の人たちには先に状況説明するんだろ?」
「理解が早くて助かるわ。さすがね」
この後、オレの呼びかけに集まって貰った自警団の人たちに状況を話し、オレたち2人はこれから始まる
リシルにああは言ったが恐らく力を使わないと切り抜けられないだろう。
オレは少し沈みそうになる気持ちを隠し、振り返って村の姿を目に焼き付けるのだった。
~
サイクロプスを村で迎え撃つと門や塀に施された守護結界が破られるのが目に見えているため、オレたちは村から出た少し先にある広場を戦いの場に選んだ。
ちょうど良い具合に、大きな木の無い少しひらけた野原が広がっている場所があるのだ。
「あとどれぐらいでここに来そうだ?」
オレも何となくどの辺りにいるかは気配で感じ取れるが、リシルほど正確ではない。
「ちょっとわたしの魔眼を便利な魔道具か何かと思ってない? もう気配感じ取れる距離なんだからわかるでしょ?」
そう愚痴りながらも律儀に魔眼で確認してくれるリシル。
年齢的にちょっと反抗期なのかな? などと思っていると睨まれたのは内緒だ。
「近いわね……もうすぐ肉眼でも見えると思うわ」
「思ったよりかなり早いな……それじゃぁ最後にもう一度作戦を確認しておこうか」
こちらに差し迫っているサイクロプスは1体のみ。
だが、それに付き従うようにオーガが10体以上、他にもランク3のゴブリンリーダーが率いる各種ゴブリンたちが多数。他にも数種の魔物が交ざっている。
どう考えても異常だった。
魔物が同種族でもないものと徒党を組むなんて、仕組まれたものとしかあり得ない。
おそらく『世界の揺らぎ』の奴らが扇動でもしているのだろう。
その魔物の群れを倒す作戦と言うのはシンプルだった。
「本当にその作戦で良いの? 私はあまり体力には自信はないけど、それでもサイクロプス以外なら戦力になるわよ?」
そう言いながらもリシルのオレを見つめる目は、嬉しそうに何かの期待に満ちている。
「いや。オレ一人で構わない。最初に『
その言葉の直後、前方の木が薙ぎ倒され、魔物の群れが現れた。
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