第164話 ドリルアームな事を忘れてジャンケンで出してしまい、場を凍らせる新人

 元来、ラジオドラマの収録の現場は少人数で行われる。

 ブースに声優が入り、その隣の宇宙怪獣と戦う戦艦みたいな機械とかある部屋には収録のスケジュールの段取りをするプロデューサーと声優さんに色々指示を出したり機材を操作するディレクター、そして椅子に座って一生懸命ボーッとしてるのが仕事の無能作家(もちろんボタンいっぱいある機械の操作なんて知らない)。

 ブースの外の都会の夜景を眺めるのもアタイの大事な仕事なのだ。


 で、今回のコロナ騒動。もちろん、ラジオの収録も生放送以外は中止。

 声優さんはそれでなくてもノドにはデリケートなので、肺炎なんてなったら声優人生さえも脅かすのだから中止なのは当たり前だ。

 で、先週から収録がついに復活。キリストを彷彿とさせる早急な復活劇であった。

 だが、思った。この無能、収録に行くべきなのか?

 三密という言葉がある。

 人口密度のみを脅かし、何もできない無能が行く事に何の意味があるのだろう? 

 アタイが収録に行かないことで咲かない花があるだろうか? いや、無い。小池百合子はポスターの写真写りにもう少し拘るべきだとアタイは思う。


 で、収録前夜。

 アタイは行かない事を選んで、遅くまでニンジャラに興じた。ニンジャラ微妙だな。

 そしたらグースカ寝てたらプロデューサーさんから電話がかかってきた。

「今日、収録来ます?」

 アタイは「一歩も行かぬ!」と答えた。一本糞のような清々しい返事。デキる無能ぶり。

 そもそも収録スケジュールが送られてきてませんので、これはプロデューサーからの「くんな」というサインだと思ったアタイ。そうじゃろ?

「あ、すいません。送んの忘れてました」

「ぬなっ!」

 アタイは頭を抱えた、もう収録まで1時間も無いじゃ無いか。スパイを斬ったと思ったら、二重スパイを斬っていた!


 両側を縛って届いた小豆で、美味しい饅頭を作ってもうたわ!


 ああああああああああああああああああ!


 アタイは「すんません。今日は遠慮します」と電話を言った。


「まぁ、ポテちゃんが来たら、僕が部屋から出ないと行けないんですけど」


 え? 


 で、ここで話は最初に戻るけど。この無能、宇宙戦艦ヤマトの操縦席みたいなあのラジオの収録機材のやり方なんて一個も知らない。

 いっつも、ディレクターさんとこのプロデューサーさんが弄っていて、アタイは眉間にシワを寄せて、原稿を格闘してるフリしてボーッとしているからだ。


「じゃあ、こっちでやっておきます」


 と、プロデューサーさんは言って電話を切った。


 アタイはやったのでは無いか?


 人はこれを逃げるというのか? 勇気のある撤退はある意味、攻めた。


 花は咲いた。


 アタイは「やったー」と思ってまた寝た。


 収録は無事に終わったそうだ。さすが優秀な人たち。

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