第74話 断罪裁判

突然病室に攻め入って来た兵士にアイン事、愛(まこと)が連れていかれてしまった。

残された涼達は急いで兵士達の跡を追っている。

「なあ?断罪裁判ってどういうこと事なんだよアリシア?」

走りながら事情を聴く涼。

「アレだけの事をすれば各国の王族達が見過ごせない自体になるわ。だから急遽開いたのよ!」

「そもそも断罪裁判とはいったい?」

「まあ簡単に言えば絶対にひっくり返らない裁判だ」

「だから?何ですぞカイエン殿?」

「つまり、どうあがいても死刑になる事が決まる文字通りの悪党を問答無用で裁く裁判だ!」

そう、断罪裁判とは。

許される限度を何度も超えても懲りずに悪事を染める者達を問答無用で裁く裁判でしかも大体が刑が決まっており余程のことがなければ死刑が確実に決まる。まさに悪党の年貢の納め時だ。

「そりゃアレだけ人を殺せばな…」

「国中の人達が彼のした事を許さないのよ」

「でも断罪裁判なんて」

「魔人族に加担してたんだ。遅かれ早かれいつかは来るとは思っていたが」

「それがついに来ただけだろ」

「お前ら冷たいな!」

少しは労わってやれよ。

お前らな…仮にいい様になって利用されただけなんだぞ。

「俺たちがした事は許されない…」

「自覚は今更してますが…」

2人も今更ながら自覚はしてる。本当なら処刑されてもおかしくない事をしたんだ。しかし魔人族に利用されていた事や涼達が彼らを引き取り寛大な処置を訴えたからこそ彼らは不自由のない日々を条件付きで遅れている。

しかし、愛の場合は誘惑に負けて力に溺れ自分で悪事を染めたと言う事実がある以上はこうなってしまっても仕方がないかもしれない。

「でも俺たちは愛をほっとく事は出来ない」

「涼さん…俺たちは愛を…」

「皆まで言うな!わかってるよ!」

こいつらはアイツを助けたい。その気持ちは良くわかった。涼達は色々考えながらとにかく今は連れて行かれた愛を追いかける。

:

アンジェラ王国の王城。

王室では魔人族に潰された国の王族達が集まり周りには今か今かと待ちわびている民達の為に断罪裁判を開こうとしている。

被告人席では手錠と足枷に重りをつけられた愛が立っている。

「これより、被告人アインの断罪裁判を執り行います!」

アンジェラ王国女王 エリザベス・アンジェラ3世。アンジェラ王国は女帝国家の国なのだ。

「では被告人に問う。貴方は魔人族と結託し国を滅ぼして回り更には生態系に尋常ならざる被害を被った。違いますか?」

「……はい…その通りです」

ふざけるな!

貴様達のせいで何人死んだかわかっているのか!!

そーだ!そーだ!

周りのギャラリー達がぶーぶーと文句を言い始めた。

「静粛に!女王陛下。聞けばこの者は己に負け生き恥を晒すために人殺しをして回っていたそうです。そっこく刑の執行を!」

「落ち着いて下さいバルマス国王。気持ちは分かりますが」

バルマス国王。

愛がアイカと共に潰した国の国王だ。

国民の大半を殺され怒りが収まらないようだ。

「お言葉ですがなこの者はこの地の生態系を無茶苦茶にした先代勇者の1人。他の勇者共々速攻首を跳ねるべきだ!それだけの罪を犯したのだ年若かろうと関係ない!」

「バルマス国王。落ち着いて下さい。」

「ガネット国王は甘い。甘すぎる!そんなんだから自分の国をいい様にされるのだ」

「静粛に!」

アンジェラ女王の言葉で場が静まる。

「被告人に問う。其方は世界を滅ぼそうとした魔人族の王の復活に加担し世界を窮地に追い込む手助けをした、違いますか?」

「はい…間違いありません…」

愛はただ静かに答える。

「判決を言い渡す!被告人アインを国家反逆罪並びに大量虐殺の罪により弁護の猶予もなしと判断しよって然るのちに死刑に処す!」

「ま、待って下さい!」

「何ですか?ガネット国王」

「確かにこの者は国をいや世界を危機に追い込んだ罪人かもしれませんが、ですがそれは魔人族に唆され騙されていたのもまた事実!どうか寛大な処置を!」

「静粛に!」

ガネット国王は涼の言葉で人を裁く事がいかに簡単に済まされる事かを知った。しかし、彼らは確かに騙されていたその事実も無視して死刑とは余りにもあんまりである。

「ガネット国王。其方の言い分も分かりますが、ですがもや周りの者達も私もそれでは済まされない程の被害と犠牲者が出ました。もはや騙されていたでは済まされません!」

「そ、それは…」

「裁判は以上です!即刻ギロチンにて首を刎ねなさい!」

:

その後、愛は処刑場へ連れていかれた。

そして処刑台へ登らされギロチンの台に頭を固定されてしまう。

「被告人何か言う事はあるか?」

「…ありません…僕は…もう十分です…」

涙を流しながら自分の運命を受け入れている愛。自分のした事の重さがやっとわかった。

2人の言う通り飛んだバカだった。

素直になっていれば親や周りとの関係が崩れずにすんだかもしれない。

今更こんな事思ってももう遅いか。

あーあーお母さんに会えるかな?いや地獄に行くから居ないか…

愛の頭に袋が被せられた。

そして執行人が斧を構えて台座の階段を登りギロチンを固定しているロープの前に来た。

「執行せよ!」

アンジェラ女王の名の下にギロチンのロープが切られギロチンの刃が愛の首目掛けて下がっていく。

カキンッ!

「何!?」

ギロチンの刃がバラバラに砕けた。

「ちょっと待った!」

「な、何者ですか?貴方は!」

「ちょっと涼!!」

観客から処刑場に乗り込んだ涼。

「俺は猿渡涼。戦隊だ!」

「猿渡涼?戦隊?は!貴方まさか噂の勇者!?」

「そうだ俺達はホウキュウジャーだ!」

ホウキュウジャーだって!?

最近名を轟かせている勇者達か?

なんでも魔物や亜人で結成された討伐ギルドだって…

周りの者達がヒソヒソと話している。

「涼のお馬鹿…どうして飛び出していくのよ!!」

「まあ、助け出せましたし」

「でも相手は各国の貴族や王族だ!」

「ヤバイのですか?」

「当たり前だ!」

「下手したら打ち首もんだからな」

「涼」

「涼さん」

仲間達が到着した頃には愛は城にはおらず処刑場へ向かったと聞いた涼が変身して飛び出して行ってしまったのだ。

「猿渡涼さんでしたね?魔人族と戦いこの世界を救う為に活躍している現勇者様と。お噂はかねがね聞いておりますわ」

「だったら話は早い!女王様よこいつの処刑を待ってくれないか?」

「何だと!?勇者ともあろう者がその大罪人を助けると言うのか!?」

「バルマス国王お静かに。何故ですか?その者は世界を壊した張本人。ならば速攻打ち首にするべきと皆が訴えているのですよ?」

「確かに悪い事をしたのは事実だ。それは分かるさ、でもな責任は俺にもある!」

は?何を言ってるんですか?貴方は?

「責任と言いますと?貴方は今回の事件には何の関係もなくむしろ解決へ導いた恩人ですよ。責任など何も」

「あんた達の大切な人達を助ける事が出来なかった…戦隊としての俺達のミスだ!助けられなかったのは俺達戦隊にも責任がある!」

「何を?仰っている涼殿?」

「貴方は事件解決に導いた者です。何も問われる事はありません。何故その者を貴方は庇うのですか?」

「決まってるだろ!それが戦隊だからだ!」

は!?何を訳のわからない事を抜かしているんだこの勇者は??

「あの馬鹿…」

「いつもアレで通すんですか…」

「かっこいいですな!」

「いやアレは単に馬鹿なだけだろ」

「本当に涼ってお馬鹿…」

「ははは、面白い事になってきたな」

仲間達は涼の回答に呆れつつ理解はしている。

「何を仰っているのですか?」

女王達も困惑している。

「戦隊はな悪いと自覚して悔い改めてる奴を見捨てない!それが戦隊だ!それが本当の正義なんだ!だからコイツをこのまま処刑させる事は出来ない!」

「貴方は…馬鹿ですか?」

「馬鹿ってなんだよ?」

「僕は処刑されて仕方ない事をしたんです!もういいんです!!死なせて下さい…もう沢山なんです…」

「簡単に死にたいなんて思うな!」

「え?」

「和樹も海斗も確かに同じことを言ったさ。でもな、アイツらは罪を理解した上でやり直そうと頑張ってるんだ!だからお前も諦めず足掻いて生きろ!苦しい時は俺が励ます!俺がお前を助ける!俺がお前に本物のヒーローを見せてやる。だからお前は死ぬなっ!!生きたいって言え!最後まで生き抜いて償うんだ!!」

涼は叫ぶ。

罪を犯したから処刑?そんなな簡単だ死ねば確かに終わりかもしれない。

でも、コイツはまだ生きたいって叫んでるコイツの目はまだ死んでない。だから俺はお前を助ける。

「どうして…そこまで…僕を…」

「何度も言わすなよ。ヒーローは生きたいって言ってる奴を助ける。それが戦隊だ!」

戦隊とは弱気を助け悪を蹴散らすだけじゃない。本当の正義は生きたいと叫んでいても認めて貰えない人達の生きる糧になる事もだ。

俺だってずっとヒーローに助けて貰って今日まで頑張って来たんだ!!

「言い分はわかりましたが。判決は覆りません。」

「だったらコイツの罪、俺達が背負ってやる!」

「「「「「「はっ!?」」」」」」」

仲間は声を上げた。

「お、おいおい!」

「涼さん!そこまで…!」

「コイツは俺達が引き取る!そして必ずこの世界を平和にしてみせる。俺の命をアンタ達にくれてやる!」

周りがざわめている。

犯罪者を助ける為に自分の命をかける勇者がいる!?そりゃ騒めくわな。

「それはどういう事かわかっているのですか?貴方の生涯を私達に委ねると言う事ですよ?覚悟の上と?」

「ああ、じゃなきゃ命を預けない!」

「だが貴様の命一つで皆が納得すると本当に思っていると?それでその男の罪が消えると本気で思っているのか?」

「それは…」

「私も陛下達に生涯を委ねますわ!」

「アリシア!?」

アリシア姫だ!

まさか姫さまが!?

其れ程までにあの罪人を?

「全く本当に馬鹿なんだから」

「すまん勝手に決めちまった」

「全くだよ君って奴は…」

「涼さんは本当に馬鹿ですね」

「コハク、リア」

「陛下僕達の命も委ねます!」

「だから寛大な処置をお願いします!」

リアとコハクも愛を助ける為に来た。

「よかろう我輩の命も捧げましょうぞ!」

「全く馬鹿ばっかだなウチの連中わよ」

「ルーガル!カイエン!」

「おっと俺も忘れんなよ!」

「私も戦隊であります!」

「年長者もたまには頼ってね!」

「みんな!!」

仲間達全員が処刑場に集まった。

「「愛(まこと)!」」

「和樹さん、海斗さん」

「愛!一緒に一からやり直すぞ!」

「何があっても俺達はダチだからな!」

「ッ…僕…生きたい…ちゃんと…やり直したい…」

愛は自分の為に命をかけてくれたみんなに感謝の気持ちが湧いてきて生きる気力を取り戻し涙を流す。

「俺達戦隊の命をアンタ達に預ける。魔人族を倒せず逃げ帰った時には煮るなり焼くなり好きにして構わない!だから頼むコイツを生かしてやってくれ!」

涼達は頭を下げ必至に訴える。

「そんな事で罪が軽くなると思っているのか!甘いにも程が」

「静粛に!でわ、皆さんの命を対価にその罪人の命を今一度生かして欲しい。それが願いですか?」

「ああ」

「はぁ、全く噂通りの勇者ですね。貴方達は!」

「それじゃあ!」

「判決を言い渡す!被告人アインいや愛はその命尽きるまで罪を償いこの世を全て平和にする事を言い渡す。出来ぬ場合には貴方達全員にそれ蘇澳の罰が降りかかります。更にはアリシア・フォン・ガネット其方の今後の人生の自由を剥奪します!それが嫌なら魔人族を必ず討伐し平和を必ず成し遂げなさい!」

「当たり前だ!俺達は戦隊だ!」

「その言葉信じていますよ。勇者様方」

こうして愛の断罪裁判は幕を閉じた。

涼達の命を対価に…

:

「皆さん…本当にありがとうございました…」

馬車に戻った涼達は愛を馬車に向かい入れた。

「涼、本当にありがとう!」

「涼さん!マジでヒーローです!」

「いやぁ〜当然の事をしただけさ」

「馬鹿言ってんじゃないわよ!全く私達の人生は魔人族を倒さなきゃ自由はないのよ!」

「全く君って奴は!」

「勝手に話を大ごとにしやがって!!」

「みんな無事だったから良かったですが、下手したら私達も打ち首だったんですよ!」

「まあまあ皆さま涼殿は正しい事をしたわけですし…」

「ルーガル魔人族を倒さなきゃお前確実に干物になる約束したんだぞ」

「…涼殿!!我輩の命を勝手にかけたのですか!!」

今更気付くなよ…

「まあまあ皆んな抑えて」

「でもお祖母様!!」

「大丈夫でありますよ!皆さんなら必ず魔王を倒せるでありますよ!私も今以上にバックアップするでありますから!」

「まあ、こうなったらマジで魔王を倒すぞ!」

「当たり前だ!」

「ええ!」

「我輩干物は嫌ですぞ!」

「当たり前だ俺もモルモットはごめんだ!」

デュラハンだしな。実験材料にされるな多分。

「私も結婚相手を勝手に決められたくないわよ!」

「なんだよ結婚したい相手いるのか?アリシア?」

「え…!?そ…それは…」

顔が真っ赤になったアリシア。

「う、五月蝿いわよ涼!こうなった以上責任取りなさいよ!いい命令だからね!」

「わ、わかったよ…責任はとるさ」

「え…」

「必ず魔王を倒す!」

「ば、馬鹿ーーーー!」

アリシアは涼の足を踏んづけた。

「イッテーー何すんだアリシア!」

「ふんだ!涼の馬鹿!デリカシーなしアンポンタン!!」

アリシアはぷりぷり怒り場を離れた。

「あの…涼さん」

「ん?」

「僕も…貴方みたいなヒーローになれるでしょうか?」

「ヒーローになりたいのか?なら教えてやるよ!本物のヒーローを!」

「はい!よろしくお願いします。先生!」

愛と涼は握手を交わす。

愛は見つけた気がした生きる為の手本と目標を。でも目標にするにはちょっと馬鹿な気はするが、誰が誰の生きる目標に変わるかなんて解らないものだな。

本当に…

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