泰国編-2.「側室の娘の国」

「玉座は正しき血筋にのみ与えられる」


それがこの国を建国した王が言い残した言葉だった。




遺言通りこれは先王まで脈々と受け継がれ、王の子が王となった。




しかし、先王は欲にかられた逆心を持つ貴族たちによって猜疑心の塊と化した。




そして自分の子と産んだそれを一人づつ殺していった。




先王は乱心により歴史に名を遺す残虐な暴君としていまも語り継がれている。




「玉座は正しき血筋にのみ与えられる」




その今もこの言葉は守り続けられ、先王から負の遺産を賜ったこの王は血塗られた玉座の上に鎮座している。




「陛下、議拝のお時間です。」




王だけが纏う事を許される深紅の衣服に身を包んだ王は御付きの言葉に手を止め、


週に二度、辰の刻に行われる議拝に赴く。




これは国の決め事を確認し改正するための重臣と王との自由討論のようなものだ。




「恐れながら陛下。このような非礼極まりない書簡が門の前に置かれていたそうで...急ぎ早馬にて持ってこさせました。」




重臣の一人が俯きながら王に書簡を差し出した。




「皆の前で読み上げよ。」




王の命に応じ、重臣が恐る恐る口を開いた。




「翁主は玉座の正しき主ではない。


女に王は務まらない。


国は新たな知性溢れる賢王を求めている。


翁主は来たる災いの種を開花させる穢れた血である。


翁主を玉座から引きずり降ろせ。


と、書いてございます。」




重臣は震えながらその書簡を読み上げると膝を着き頭を垂れた。




「皆も知っているだろうが、私はこの国で本来ならば玉座を天から賜ることができぬ翁主の身である。


公主ましてや皇太子でもない。しかし、先王の血を受け継ぐ者は私の他にはいない。この国は建国時に蘭王がおっしゃった通り、この私に流れる血と共にある。


わかるな?」




重臣たちは皆頭を垂れて、わかっておりますという合図に慣わし通り左手を額に添える。




「この国はまだまだ飢饉で政もままならぬ状況である。


この先このように翁主であり、女である私を認めない者もあり、混乱も多いだろう。


だからこそ、私は国政を整え、我が泰国を逆賊や異種から守り、この血を、この国を、絶やさぬように傾注する次第。」




「そのためについてきてくれるな?」




この擦り切れぬうら若き王は、その翡翠の瞳にこの国の行く末を写し、この国の為に身をささげると誓った。




重臣達もまたその翡翠に一つの道をみた。




隠伏した一人の邪心を除いては。


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泰国は先王の時代に全土に渡って四万もの餓死者がでた。理由は重税のためである。


税の為に納められた作物を作っては作るの繰り返しで地は疲弊し、とうとう何も育たなくなってきているのだ。




それ故に王都と州に配給所を設け、毎日炊き出しを行い、向こう一年は税がなくてもいいということになっている。


最もそれに付け込んでただ飯ぐらいに泰国を流離う外道もいるのだが。




こんなに食料が足りないにも関わらず他国の者を受け入れるのは、働き手が欲しいということと、隣国の賽国がもっと酷い状態だからだ。




賽国では八年間も王位争いで皇子達が未だなお殺し合っている。十五人の皇子全員が、だ。元々賽国は兵器を国の主要な産業としているため、他の国の内乱よりももっと惨たらしい残虐な戦いが行われる。そのため、兵も全員死に絶え国民も死ぬか、死ねないなら亡命するかという選択にまで迫られているのだ。




泰国の近隣の国で今一番安全なのは間違いなく少年の故郷である芭国だろう。




ボロ宿、通称終焉亭を離れて早二日が経った。


腹が減って疲労もとうに限界を超えて無意識に足を動かしている感じだ。




夜通し歩き続けているとなんだか深夜テンションのようなものに陥り、芭国も少年"啓烹"と共にアニソンを歌ってアカペラ大会をしていた。




啓烹が歌う歌はもちろんこの芭国の歌だったのだが、メロディがありがちな萌えアニソン調なのが面白い。


ただ歌詞の言葉選びが古渋いというギャップがあり、何とも言えなかった。




「陣を組んで 啓を成せ 枯れた大地を英知で再起させよ 芭梓豪のお慈悲があらんことを~」


啓烹の歌の中に確実といっていいほど出てくる芭梓豪というワードが気になり、それは一体なんなのだと尋ねた。




「芭梓豪様ってのはな芭国の創始者で、荒れ果てた芭国に鉱山資源を見出して今の職人の国として栄えさせたお方だ。西の叡智を謳われる呂老師は知ってるだろ?そのお師匠様なんだぜ。」




いや、西の叡智とやらも全然知らないけど...。そういえば俺賽国から亡命したことになってるんだっけ?




「呂老師の師匠か、すごいお人だ。かなり国民の間でも英雄視されてるんだな。」


「当たり前だ!芭梓豪様はなぁ...」




一台で鉱山を使って国家を築き上げ、ただの農村の残骸だった芭国の地に政治やらなんやらを導入して発展させたとか、晩年には鳳凰に乗って天壇の頂に立ち雨ごいをしたことで、芭国の天子として認められ、数百年降らなかった雨を降らせたという超チート級の人だったらしい。


まぁそれで今の芭国の豊富な資源があるということで、国民にも今も伝説として語り継がれているらしい。




そんなこんなで芭梓豪の非現実的な伝説を語られて三時間...もういいよ...聞いたのが悪かった。


ここらで少し仮眠をとらないかと啓烹に言われ、軽い食事をして仮眠をとった。




そして四日目の正午、王宮の門に到ったが、右足は頂上に着くまでに疲労骨折をしてしまった。


現世の引きこもり生活における大きな代償だなこれは...。




あれ?なんで夢なのに現実の骨折みたいに痛いんだ?

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