春よ、来い
雪がとけて用水路の水の流れが早くなった頃から僕は、毎日昼頃から日が暮れるまで焼け跡を片付けながらキャラバンが来るのを待っていた。
記憶が確かならいつも日のあるうちに村に来てたからね。
流石に午前中は雑木林に入って狩りをしたり柴刈りしたり用水路で魚釣ったりしてたけど。
そんな日を十日くらい繰り返した頃、待ちに待ったキャラバンが到着した。
隊長さんはあらかた片付いてさっぱりと何もない廃村に驚きながら、僕のところにやってきた。
「生き残っているのはお前さんだけなのか?」
そんな聞き方をするということは、予想外の事態じゃなかったと言うことか?
僕は頷いて事のあらましを語る。
隊長さんは時々質問を挟みながら僕の話を聞いてくれた。
いつぶりだろう?
妖精以外と話すのは。
「なるほどな。ずいぶん大変だったろう」
隊長さんは僕の背中をトントンとあやすように叩く。
「実はね、この国は今大変なことになっているんだ」
村に来るキャラバンは三つあって、一つは今目の前にいるキャラバン。
二つ目は暑い盛りに来るキャラバン。
もう一つが他国から不定期にやって来るキャラバンだ。
それぞれ売っているものと、この村で仕入れるものが違う。
品物も重要だけど、キャラバンが一番の商品にしているのは情報だ。
ちなみに二番目は
血を適度に薄めるためだ。
まぁ、それはいい。
隊長さんが言うには、この国の王様が
多分、この件は大人たちにはしていたんだろう。
子供だった僕に語られなかっただけなんだ。
時系列でいうと十五年前に先王がなくなり、一度は長子が次王に選ばれたのだけれど、一年後の戴冠式で殺されてしばらく空位に。
十一年前に先王の弟がドサクサに紛れて王位に就いたのだけれど、継承権を争った他の王族連中が離反してそれぞれに王を僭称しだしたんだって。
そして、ゴタゴタが続いたことで王家の権威が失墜した結果、五年くらい前から各地で有力者が自治独立を宣言するっていうなんか戦国時代状態に突入しているらしい。
…………。
なるほど。
僕はちらりと
リリムは顔を背けて口笛なんか吹いている。
「生きてるだけでいい」って、これ相当難易度高いぞ?
山奥のど田舎にまで戦火が届いたくらいの状況ってこったろ?
…………。
あれ?
妖精って相当珍しい存在のはずなんだけど、隊長さんいやにあっさりスルーだな?
もしかして見えないのか?
「当たり」
リリムは僕の耳元でニタリと笑って意地悪くそういう。
くそう! 心を読んだな?
ニタリ顔も可愛いから腹立つ。
ナビのくせに。
商隊長さんなんか、「キャラバンも潮時か?」とか言ってるし、元々価値のあるものを運んでいるいつ襲われるかもしれない採算や命の勘定で冒険的な商売が、今や割に合わないって計算になってるようだし確かにヤバいね。
「でな、ここに来るまでの間に二ヶ所、同じように盗賊の被害にあった村があって生き残った村人を保護してきたんだが……」
と、隊長さんはとりあえず今日はここで泊まろうと旅装を解いて準備をしているキャラバンを振り返る。
「お前さん、どうする?」
ん?
「どうするって?」
「俺たちと一緒に来るか? って話よ」
……おぉ!
「他の被害者は?」
「ん? ああ、できればどこかで暮らしたいって言ってたんだけどな?」
何かいいかけて赤くなりかけている空を見上げる。
「ま、話は後にしようか。すぐに日も暮れるし、続きは飯でも食いながらだ。ところでお前さん、どこで寝泊まりしてたんだ?」
「水車小屋のそばにちょっとした小屋を建てて住んでる」
そういうと、隊長さんは目を丸くしてこう言った。
「冬を越せるような小屋をお前さん一人で作ったのか? そりゃ……なんていうかすげぇな」
確かに、前世記憶に助けられたのはあるし、半ば自然児的田舎もんとはいえ十五で究極の一人暮らしはすげぇよな。
よゐこ濱口もびっくりだよ。
「おじさん」
「なんだい?」
「まだ準備に時間かかるよね?」
「そうだな」
「一旦うちに戻ってくるね」
「そうか。じゃあ後でまたな」
「あ、欲しいものがあるんだけど……」
「欲しいもの?」
「うん。けど、銭はない」
「だろうな」
「で、買ってもらいたいものがあるんだ」
「なるほど、物々交換でいいぞ。特別に多少まけてやる」
「ありがとう!」
「結構あるのか?」
走りかける背中に隊長さんが声をかけてきたので、僕は立ち止まって答える。
「一人じゃ持ちきれないくらいは」
「じゃあ、手の空いてるやつとカゴ貸してやる」
と、呼んでくれたのは僕より五つは年下の姉妹だった。
「キャラバンで最初に拾った孤児たちだ。まだ幼くて大した仕事を任せられないんだが、荷物運びくらいはできるから。ホラ」
と、促されて姉妹は自己紹介をしてくれた。
「クレタです」
「カルホ!」
…………。
お前ら二人でハリウッド女優か!
つか、漫才師レベルだぞ。
……ん?
「ファミリーネームはユーミンとかじゃないだろうな?」
半眼で姉妹を見つめつつ感情のない抑揚でそう尋ねてみたら、姉ちゃんの方が心底驚いた表情になった。
「なんでわかった!?」
あー……うん、ナンデダローネー(棒)
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