三三 平行線を辿る会議
ミュレス国の一団は、副市長に導かれて門を潜り、市役所近くの宿に詰め込まれた。兵士達は宿屋の部屋全てどころかロビーにまで溢れ、天政府人と闇国人の監視の下に置かれた。一方で、ティナ、エレーシー、エルルーアの3人は、市役所で一番豪華そうな部屋に通された。これまでに自分達が制圧してきた町の役場とは違い、その絢爛さに3人は息を呑んだ。
部屋の中央には大きな長机が威圧感を醸し出しており、机の中央には、既に湯呑が3セット用意されていた。湯呑からは湯気が立ち上っているのが見て取れた。
3人は暗黙の了解に従って席に着いたが、湯呑には一切手を出さなかった。
妙に畏まりつつも特に関係ない話をしていると、二人の女性が部屋に入ってきた。一人は、あの天政府人の副市長であったが、他方は先程会ったばかりの南方悪魔族の一人に見えた。南方悪魔族の女は、ティナの方に一直線に歩いてくると、さっと手を伸ばした。
「こんばんは、ミュレス国の皆さん」
ティナは誘われるようにその手をとり、握手をし、そのまま対面する形でお互い席に着いた。
「私は、エレメ・ロズティートローノと申します。ノズティア共同統治領の代表ですので、ノズティアに関することは、私が交渉に応じます」
「彼女は……?」
ティナは副市長の方を指差した。
「ああ、彼女。リシーナは天政府側の代表ですが、ミュレス民族の管理はリシーナが担当してるので同席してもらっています」
エレメの機転かもしれなかったが、リシーナの同席にはエレーシーとエルルーアはただただ苦笑いするばかりだった。リシーナが首を縦に振らない限り、ノズティアとミュレス国の協力関係は成立し得ないことは確実に思えた。
「……ミュレス民族の代表者はいないのかしら?」
ティナは、いくらこの街が共同統治とはいえ、他の街のようにミュレス民族の代表を務める人もいるだろうと思い、目の前の二人に投げかけた。
「ミュレス側の代表者? 代表者なんていないわ。この街に交易しに来る商人はともかく、この街に住むミュレス人は一人残らず、天政府人の管理下に置かれてる訳。だから、少なくともこの街にはミュレス人の団体なんて無いはず」
「なるほどね……」
ティナは一言呟いた後、腕を組んで黙り込んだ。
「じゃあ、この街ではミュレス人の自由は…」
エレーシーは恐る恐る聞いてみた
「さあね。私のところに来るのは、何か問題があった時だけなんだけど、そんなに聞かないし」
「天政府人は我々ミュレス人をどういう風に使ってるわけ?」
エルルーアは未だに喧嘩腰だった。
「それもわからないけど、まあ、基本的には天政府人の言われたことは全てよね。衣食住全て賄ってもらってるんだから、まあ当然っちゃあ、当然でしょ」
リシーナの一言によって、ノズティアに住む同族の仲間は、これまでの街以上に権利が制限されていることがうかがえた。しかも、リシーナも全てを把握していないようだったが、天政府人の性格を知りつくしているエレーシーには、この街のミュレス人がどれだけ虐げられているのかが手に取るように想像し得た。
やはりいち早く、天政府人の手から解放させなければならないと強く感じた。感じたのはいいのだが、それを為す術を今すぐ用意しなければならなかった。両隣の二人も同じようなことを考えていたようで、3人で唸るばかりであった。
「そんなやり方で、よく何事も無く続いてるものね」
エルルーアは、頭を一所懸命に働かせながらも、場をつなぐように厭味を言い放った。
「これでも、統治当初に比べれば結構緩めている方だと思うけど?」
話し合いは平行線を辿り、着地点の見えない言い争いがしばし続いた。エレーシーも流石にこの場をとりなそうとしていたが、なかなか思うように行かないまま、ただただ窓の外では日が沈み、部屋が徐々に暗くなっていくだけであった。
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